黒澤明監督が問う『生きる』ということの意味とは?

映画『生きる』では癌で余命宣告された男が描かれています。自暴自棄になった男は何かに気づかされます。男が最後に取った行動とはなんだったのでしょうか。



黒澤明が「生きる」ことをテーマに人間として生きることの本質とは何かを問いかける映画です。普遍的なテーマを持っているので、現代にも通ずる作品となっています。そんな『生きる』の魅力を紹介します。

生きる意味を問う映画『生きる』とは

いまでも色褪せない映画『生きる』

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黒澤明監督の『生きる』は1952年に公開されたヒューマンドラマ映画です。癌が発覚して余命宣告を受けた男が自分の人生を見つめ直して、『生きる』とは何かという答えを探す物語です。黒澤明自身が表現したかった『生きる』意味を問う意欲作です。

監督の名は世に知られていますが、出演陣も豪華です。主人公の渡辺勘治を志村喬が、主人公が変わるきっかけを与える小田切とよ、を小田切みきが演じています。その他にも金子信雄田中春男など当時の映画業界を支えていた名優たちが名を連ねています。

本作は第4回ベルリン国際映画祭ベルリン市政府特別賞を受賞しました。この作品の海外への影響も大きく、影響を受けた映画監督も少なくありません。またドリームワークスがリメイク権を保有しており、ハリウッド版リメイクの可能性もあります。 

黒澤明が込めたメッセージ



黒澤明はそのダイナミックな映像表現と濃密なヒューマニズムを描き続けた映画監督です。その影響は世界まで届いており、スティーブン・スピルバーグジョージ・ルーカスなどに影響を与えています。芸術の教科書にも載っているほどで、まさに世界を代表する映画監督です。

その黒澤明が映画『生きる』に対して語ったことがあります。生きていることがあたりまえだと思う行為が軽薄だと明言し、その軽薄さが手遅れだと気づいた時の悲劇を表現したいと語ったのです。黒澤明の言うそうしたメッセージが随所に散りばめられており、渡辺という親しみやすいキャラクターを通して発せられるメッセージは、非常にわかりやすく受け取ることができます。『生きる』ことについて模索する映画になっています。

死に直面した公務員が自分の生き方を見つめ直す物語

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渡辺勘治は胃の不調を訴えており、検査してもらうために病院に行きました。そこで自分が胃癌であることを悟ります。これまで市役所で市民課長を務め、勤勉に働らき仕事だけに打ち込んできた渡辺。この時初めていかに自分を押し殺して仕事だけに専念し、無意味な人生を送ってきたのだと気がつきます。

そこで思い立ったように貯金をおろし、豪遊を始める渡辺。しかしいくら遊んでも虚しいと感じるだけでした。どうしようもなく悩む渡辺でしたが、あるときたまたま再開した小田切とよの一言で自分がやるべきことに気がつくのでした。

死に直面した男の行動が面白い

真面目さだけが取り柄の男が不真面目に生きてみようとする姿が面白い

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主人公の渡辺勘治のまじめさが面白いです。自分が癌であると知って渡辺は豪遊する様子が描かれている前半には喜劇の要素も含まれています。それは元来真面目な渡辺の気質によるもので、主人公の言動を楽しむことができます。

たとえば渡辺が小田切とよと会話する時にその性格が表れています。若いとよと遊ぼうと連れまわしますが、言動はまじめで行動とのギャップが面白いです。声も小さいので、とよを呆れさせる場面も見られます。もごもごと要領を得ない喋り方も笑いを誘います。

また、渡辺というキャラクターは非常にまじめなのですが、そこがどこかおかしく描かれています。物語の冒頭で渡辺がひたすらハンコを押すシーンが流れますが、地味でやりがいのない仕事でも嫌な顔ひとつしないで、黙々と仕事をこなします。病気が発覚してからの豪遊でもその真面目さが見られます。遊びながらも真剣な表情なので、まるで仕事をしているかのようなおかしさが残るシーンです。

主人公の行動に学ぶリーダーシップの在り方

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後半になると、渡辺は死ぬ前に自分にもできることがあると気がつきます。このように主人公の心の成長が描かれるのは、教養文学の流れに良く似ています。そして、渡辺は持ち前の勤勉さで自分にも最後にできることに取り組んでいきます。

その渡辺の行動がリーダーシップとは何かを教えてくれます。彼が最後にした行動。それは市民が兼ねてより役所に懇願をしていた公園の建設です。役所はその届け出をたらい回しにしていました。人が嫌がる仕事を率先してやることは、人のお手本になる行動です。リーダーとして必要な要素です。

渡辺が人生の最後に公園の建設は一筋縄ではいけません。どの部署に掛け合っても、面倒な仕事だと思って、色々理由をつけては断られてしまいます。苦労しながらも市民の声に応えて公演を完成させようとする様子は、下の人たちの声を聞き届けようというリーダーシップがみられます。

キャラクターたちが放つずしりとくる言葉の重み

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本作では黒澤明が表現することを挑み続けたヒューマニズムの一面が多く見受けられます。それはストーリーであったり、登場人物の行動であったりと色々な形で現れています。特に人物たちが放つ言葉には黒澤明のメッセージが込められているのです。

ひとつの例は渡辺の胃癌を発見した医者と助手との間に行われた会話にあります。渡辺の余命についての話題から会話ははじまりました。そして余命はもって4カ月程度と明言する医者に助手は驚きます。そして医者は助手にもし君の余命があと4カ月しかなかったら、どうするかと問いかけます。

そこに黒澤明の観客に対するメッセージが込められています。医者の助手に対する言葉は、実は監督の観客に対する言葉でもあるのです。他にも工場でのおもちゃ作りの仕事は楽しいからと、渡辺に何かを作ることを勧める小田切とよの言葉が渡辺の行動を決定づけたりと、言葉の役割が重要に強い映画と言えます。

『生きる』が人々に与えた影響



古き良き日本映画として完成度が高く、良い物を観たという気分にさせてくれます。日本人ならではの感性で撮られており、構図やカット割りなどを含めて注目できます。映画ファンならば観ておきたい作品です。

主人公の生き様が人々に感銘を与えています。観た人が主人公渡辺の行動を通して、自分はどうだろうと考えられる作品です。それは人間ならば誰もがいちどは考える『生きる』意味がテーマとなっているからです。共感力や共鳴力のある作品と言えます。



黒澤明監督作品は昔の映画というイメージがあり、時代が進むにつれて記憶からは薄れていきます。ですが、映画自体は色褪せてはいません。名作と呼ばれるものはその時代だけに合ったものではなく、どの時代にも通用するものだと思います。そう言った意味で『生きる』は色褪せない名作と言えます。

映画『生きる』のテーマを後世に残したい黒澤の挑戦

SEKAI NO KUROSAWA #黒澤明 #SEKAKURO

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死を目の前にした人間が自分の人生のいままでとこれからを考える黒澤明監督の『生きる』。そこには様々な生き方が描かれています。そして根本には死に直面した人間がどういう生き方を選ぶのかという問答があります。

本作は男が死ぬまでの4カ月間という短い期間ですが、誰にもわかってもらえない孤独や、絶望、そして生きがいなど、人生の縮図が描かれています。『生きる』という普遍的なテーマであるからこそ、現代でも、そして海外でも通用する黒澤明の代表作となっているのです。

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