黒澤明「乱」が4Kで劇場上映決定!大作にまつわる意外な事実とは?

2017年4月1日に、黒澤明監督の傑作、「乱」が4Kデジタル修復版として公開される。黒澤映画の中でも、フランス合作とクレジットされている背景には、当時の邦画の事情があった。そんな中でも、巨費を投じ、迫力の映像で悲劇を撮った黒澤監督の手腕には、脱帽である。傑作「乱」をあらゆる角度から分析する。

黒澤映画の真骨頂!壮大なスケールの悲劇

世界のクロサワの傑作!「乱」とは?

2017年、4月1日に、「乱 4Kデジタル修復版」エビス・ガーデン・シネマで上映される。「世界のクロサワ」といわれ、あのステーィーブン・スピルバークや、ジョージ・ルーカスにも多大な影響を与えた黒澤明監督の作品である。

「七人の侍」「羅生門」「用心棒」などで知られる日本映画界の巨匠も、当時の邦画界では自由に作品を作ることが出来なかった。しかし、黒澤明「ライフワーク」と語った「乱」は無事にクランクアップした。

「乱」がクランクインした1980年代の邦画には、黒澤監督の要求する巨費を投じることが出来ずにフランス資本が投入された。この、「乱」の制作費用は、20億円以上ともいわれている。

豪華絢爛な作品の中の悲劇

「乱」は、セットもエキストラにも当時では考えられないほどの巨費を投じていた。迫力に満ちた合戦シーンや、本物のようなセットの城の炎上シーンといった当時では考えられないような映像シーンが随所に見られた。

だが、この映画の原作はウィリアム・シェイクスピア「リア王」である。黒澤監督が撮りたかったのは、激しい映像があるからこそ浮かび上がる、人の業故の悲劇=諸行無常だったのだ。

有名な悲劇を、戦国時代の架空の武将と一族に置き換えた「乱」とは、激しく美しく残酷な作品なのだ。162分の上映時間に込められた黒澤明「乱」のテーマとは、現代に生きる我々に向けたメッセージでもある。

【ネタバレ注意】「乱」のストーリーをざっくりと紹介!

黒澤流「リア王」

空の戦国武将、一文字秀虎は、老齢のため長男に家督を譲ることにする。毛利元就で有名な三本の矢の教えで、3人の兄弟の結束を計るが、三男の三郎は、束ねた矢を力任せにへし折り、秀虎から勘当されてしまう。

家督を継いだ長男の太郎は、正室である楓の方にそそのかされ、父親と不仲になる。秀虎は、次郎の城に向かうが、次郎太郎と同調し秀虎と袂を分かつ。秀虎は無人となっていた三郎の城に篭城する。

太郎、次郎の軍勢は三郎の城を焼き討ちにする。秀虎の家臣や侍女は皆殺しにされ、太郎次郎の家臣に暗殺された。自害しようとして果たせなかった秀虎は発狂し、道化の狂阿弥と共に荒野を彷徨う。

そして、鶴丸のみが残った・・・

隣国の領主、藤巻に気に入られ娘婿となっていた三郎は、秀虎を救うために軍勢を動かす。一文字家に一族を皆殺しにされた恨みから、楓の方次郎を篭絡し、三郎と戦わせる。

三郎は、正気を取り戻した秀虎との再会を果たすが、次郎の手下に射殺される。総ての生きる気力を失った秀虎は死に、次郎も隣国の軍勢に滅ぼされる。そして、次郎の正室の弟である鶴丸のみが残った・・・。

登場人物の大半が死に、かつて秀虎によって目を奪われた鶴丸のみが生き残るという、リア王の3姉妹を、3兄弟にして描かれた悲劇でした。一族を滅ぼされた楓の方による因果応報の物語でもある。

「乱」のロケ地はどこ?九州というのは本当なのか?

主なロケ地は九州!

「乱」ロケ地はシーンによって異なるが、主に九州で撮影された。特に、合戦シーンなどは大分県の飯田高原でロケをやっていた。広角に場面を切り取ることが多い「乱では、広大な自然が必要だったのだ。

4億円かけて作ったセットを、燃やすシーンは御殿場で撮ったようである。これは、仲代達矢演じる主人公秀虎が狂う、三の城炎上シーンのことである。1回こっきりの撮影チャンスを、仲代達矢は見事に演じた。

1,000人を超えるエキストラを動かすには、九州の高原はうってつけだった。どこまでも広がるような草原がなくては、800騎を超える騎馬を動かすこともままならなかった。スケールが違いすぎたのである。

ラストの鶴丸が立っていた城址のロケ地はここだ!

ラストの鶴丸が立っていた梓城址の場所は?

他にも印象的なシーンといえば、ラストの野村武司(後の萬斎)演じる鶴丸だろう。総てを失い、生き残ったのは盲目の無力な鶴丸ただ1人。野村武司(萬斎)は当時10代だったが、見事に重要な役を演じている。

そのラストシーンの場所は、佐賀県の名護屋城址である。引きのカットには、熊本県の阿蘇砂千里に石垣を組み上げて撮影する徹底ぶり。妥協が一切なかった黒澤監督らしい、撮影手法である。

海外資本が投入されたにも関わらず、撮影場所も俳優もスタッフも総て、日本国内で行われた。プロデューサーのセルジュ・シルベルマンが、世界のクロサワに好きなように撮らせたからこその「乱」であった。

意外な出演者?乱にピーター(池畑慎之介)の名前が!

俳優達の名演

他のキャストで、強烈な印象があるとすれば、ピーターこと池畑慎之介が道化の狂阿弥役として出演している。リア王でも道化は重要な役割であった。「乱」ではピーターがこの役を熱演している。

ピーターは、後に嵐のシーンで実際の台風を待って収録したと語っている。その年の九州の台風は1つだけだったらしく、下手をしたら撮影がもう一年延期していた。リアリティの追求のため、なんでもした黒澤組らしい。

そして、復讐のため太郎と次郎を惑わす楓の方に、原田美枝子根津甚八演じる次郎を迫力で圧倒するシーンは圧巻である。「乱」の鬼気迫る迫力は、俳優達の熱演無しでは語れない。

影武者から引き続き仲代達矢が主演!

仲代達矢は、「影武者」1980年より引き続き、黒澤作品に出演している。黒澤作品といえば、三船敏郎だが「赤ひげ」以降、黒澤作品には出演していない。理由は三船が自身のプロダクションを立ち上げたからだ。

「影武者」は、本来勝新太郎が、出演する予定だった。しかし、黒澤監督とは馬が合わず、仲代達矢にオファーがきたのである。そもそも、「影武者」「乱」の製作費が調達できなかったために生まれた作品だった。

「乱」での仲代は、悲劇の中心である秀虎を演じきった。炎上する城から、放心状態で歩き去る演技は、4億円のセットを燃やすという絶対に失敗できないプレッシャーの中で行われたのだ。

「乱4Kデジタル修復版」公開!黒澤明の名作が復刻する背景とは?

80年代当時の映画界は予算難?

1980年代の邦画の予算の大半は広報に回されていて、製作費に比重を置く黒澤組は敬遠されていた。黒澤監督は、「トラ・トラ・トラ!」での降板以降、満足に映画が撮れない時期があった。

当時の邦画の予算は、ハリウッドに比べて極めて少なく、なけなしの予算の大半を広報に回してしまっていた。背景には、テレビによる映画業界の斜陽があった。1950年代の日本映画黄金期のようにはいかなかったのである。

だが、黒澤明には世界中にファンがいた。前作、「影武者」は、フランシス・フォード・コッポラジョージ・ルーカスが協力し、「乱」ではフランスが出資した。国際的な評価が傑作を生んだのである。

「乱」海外からの評価

「乱」はフランス資本によって制作された。第33回カンヌ映画祭パルム・ドールを受賞した「影武者」に続いての作品である。「乱」は日本国内の評価より、海外の評価の方が高い。

第58回アカデミー賞では、多数の賞にノミネートされたが、受賞したのは衣装デザイン賞のワダ・エミだけである。ゴールデングローブ賞では外国語映画賞を受賞している。

海外の黒澤ファンの中では後期の最高傑作とされている。黒澤監督は、国際的な影響力を持った作品を作り続けた。「乱」はその出自、評価共に海外のファンが待ち望んだ作品だったのだ。

「乱」が4Kで蘇る!


フランスのオリジナルネガフィルムを、撮影監督の上田正治4Kデジタル化したのが、「乱 4K」である。この作品は、第68回カンヌ国際映画祭のクラシック部門で上映された。

2015年には、東京国際映画祭でも上映された。そして、2017年4月1日の公開となるわけである。黒澤監督が制作に構想から10年かけて着手し、海外や国内のファンを熱狂させた「乱」の復活である。

名作は時代を超えて支持される。多くの黒澤作品がそうだったように、「乱」もデジタル化により文字通りの不朽の名作となったのだ。黒澤が残したかったテーマを、ぜひ劇場で体感して欲しい。

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