【マルサの女】伊丹十三の傑作!豪華キャストや裏話まで徹底紹介!

「マルサ」とは国税庁査察部の隠語です。「マル~」って、警察をはじめ捜査関係ではよく使われますよね。一般的には㊙とか……。『マルサの女』とは、そこで働く板倉亮子(宮本信子)の奮闘を描いた映画です。脱税の方法もリアルで、“どちら側”からも楽しめる作品になっています!

監督・伊丹十三とは何者なのか?

マルチな才能を発揮した文化人

今日はこちらに?? #伊丹十三

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伊丹十三は1933年に京都で生まれました。父は片岡千恵蔵プロダクションや東宝の映画監督だった伊丹万作です。伊丹は大学受験に失敗し、新東宝の編集部に入社しました。これが仕事としての映画との出会いです。

しかし、すぐさま監督への道を志して助監督になったわけではありません。新東宝を退社後は、商業デザイナーとして車内吊り広告や本の目次のデザインをてがけて評価を受けます。この頃に山口 瞳(当時は壽屋、現サントリーの広告部に在籍)と知り合います。

山口は伊丹の手腕を認めて、作家になってからは自著のブックデザインや装丁を依頼しました。その親交は晩年まで続きました。クリエイティブな才能を見抜いていたのですね。その後は1960年に大映に入社、「伊丹一三」名で役者になりました。

その大映も1961年に退社します。筆者が考えるに、大きな組織の中にいること自体が伊丹には“合わなかった”のではないでしょうか。

その後は『北京の55日』(1963年)や『ロード・ジム』(1965年)といった外国映画に出演し、その様子をまとめた『ヨーロッパ退屈日記』(文藝春秋新社)を出版、これがヒットとして作家・エッセイストとしての礎も固めていきます。

1967年には宮本信子と再婚して、名を「一三」から「十三」(伊丹十三の誕生ですね)に改めて、芝居だけではなくドキュメンタリー作家やテレビ番組のレポーターも務めます。この時のドキュメントの視点は、後の彼の映画でも存分に生かされています。

— gaijinmade (@gaijinmades) 2017年2月16日



国税庁査察部-通称「マルサ」。ここで働く板倉亮子(宮本信子)の奮戦ぶりを描いたのが、伊丹十三がメガフォンを取った『マルサの女』(1987年)です。脱税をする側と、それを取り締まる側の攻防には緊張感が溢れていて、生唾モノでしたよ。

この作品は、二部構成になっていて、亮子が税務署員時代だった頃の活躍とマルサに栄転してからの案件とに大別されています。税務署員時代のエピソードでは、パチンコ店の手口を暴くために客になりすまして、あらかじめマーキングしておいた自分の札を使って店主(伊東四朗)を追い込みました。

そのやりとりの面白さや、店主の狡猾さを見せておいて、いよいよマルサではスケールの大きな相手と対峙する事になります。エンターテイメントに徹していて、今までの伊丹映画とはひと味違うと感じました。

マルサの女? #マルサの女#伊丹十三#宮本信子#山崎努#映画メモ#邦画

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マルサに移ってからの亮子は、相変わらず徹底した調査で実績を上げていきます。直属の上司・花村統括官(津川雅彦)率いるチーム内でも、実力を認められて溶け込んでいきました。そんな中のある日、一本の密告電話が入りました。都内と近郊に5店のラブホテルを経営している権藤英樹(山崎 努)が脱税をしているというのです。

電話の主は、権藤に捨てられた元愛人です。男女の愛憎劇から脱税摘発へ、という図式がスムーズに流れて行きます。ここへ至るまでの愛人の葛藤が、シーンを引き立てているんですね。「伊丹監督、なかなか魅せてくれるなぁ」と生意気にも、筆者は映画館内で思ったものでした(笑)。

この権藤と亮子は税務署員だった頃に一度対決していましたが、その時の亮子は何もできず、摘発には及びませんでした(写真・上)。権藤の方が一枚も二枚も上だったという事です。



この元愛人の密告により内々偵を始める事となります。密告の内容「ラブホテルの本当の売り上げが書かれた紙を翌朝、愛人が生ゴミと一緒に捨てている」を頼りに、亮子はゴミ収集車を追って集積場へ。そこで若手の国税庁員とともにゴミを漁り出しました。

この売り上げ記録が出た事によって、正式に内偵を始めます。亮子にとっては、二度目の対権藤なので、抑えどころは分かっています。権藤宅はもちろんの事、銀行、愛人宅、(もちつもたれつの)暴力団事務所等です。証拠を固めたら、これらに一斉にガサ入れ(強制捜査)をするのですから、捜索も慎重です。

一挙に150人以上の職員が動くのですから、迫力がありました。その“踏み込み”の指示を伝えたのがNTTのショルダーフォンで、いま見てみるとレトロ感いっぱいでこのシーンも好きです。



そして、遂に本丸の権藤宅に花村・亮子を擁する班が乗り込んだのですが、証拠は一切出てきません。権藤の視線から位置を探ろうとして、その先にあった本棚と書籍からも出てきません

そこで安心したのか権藤は、花村の質問「どうすれば金が貯まるのか?」に対して饒舌に話し始めます。「コップに水を溜めて…(中略)…いっぱいになっても飲まないで舐めるんだよ」(写真)。その時に亮子が寄りかかった本棚がズレて、奥の隠し部屋の存在がバレてしまったのでした。

そこには、探していた現金、金塊その他もろもろ。こうして、強制捜索は幕を閉じました。

本作品は全編に渡って脱税の手口のオン・パレードです。そこには、“人間味”も感じられるシーンもあり、なおかつ社会風刺も効いていて「新しい伊丹ワールド」が形成されたと言ってもいいでしょう。

「マルサのJ.ニコルソン」登場!

監督のキャスティングの妙、裏話も

『マルサの女』では、伊丹十三のキャスティングも光っています。そのいい例が伊集院役の大地康雄(写真・後列左端)でしょう。権藤のメインバンクを内偵した際の隠し撮りしたVTRを見て花村が「こう見ると、伊集院もなかなか凛々しいな」と言った途端に亮子が「彼はマルサのジャック・ニコルソンと呼ばれています」。

その後は一同「……。」でしたが、筆者はこのセリフが作品中、一番のお気に入りです。亮子の愛が感じられて、実に微笑えましいんですよね。実際にJ.ニコルソンに似ていますし(笑)。このセリフは本番当日に急遽付け加えられました。伊集院役が川谷拓三から、大地に変わったためです。

この辺の機を見るに敏な伊丹監督のセンスは天性のモノでしょう。ピリピリした中に、一瞬の清涼剤を入れた効果をスクリーンに与えています。

キャスティング以外でも、気になる点があります。山崎 努が演じた「権藤英樹」なる役名についてです。彼の出世作になった黒澤 明監督作品『天国と地獄』(1963年、東宝)で、山崎青年が営利誘拐を企てたのが靴メーカーの社長・ゴンドウ氏(写真・前列左)の子息なのです。

1977年にリバイバル上映する際にラジオCMで何回も流された「カバンを二つ用意しろ。…(中略)乗れば分かるよ、ゴンドーさん」という劇中のセリフで、この役名を筆者は思い出したんですよ。伊丹監督は、そこから富裕層の象徴としての「ゴンドウ」という役名を“頂いた”のでしょうか?

だとしたら、洒落が効き過ぎていて素敵です。確認のしようがないですけど……。このように、作中の“小技”について想いを巡らせられるのも、この作品の素晴らしい所だと思います。

『マルサの女2』では、さらなる巨悪と対決

宗教法人への切り込みと、地上げ屋の悲哀と

出典:https://www.amazon.co.jp

『マルサの女2』は、前作公開の翌1988年に封切りされました。今作で亮子がターゲットにしているのは、宗教法人「天の道教団」です。そこの管長・鬼沢鉄兵(三國連太郎)は、宗教法人には、税法上の優遇制度が多い事を利用して様々な脱税をしていました。

加えて風俗店を複数店経営、売り上げを誤魔化す事を始めとして、「地上げ屋」としても荒稼ぎしているのです。時はバブルのど真ん中(全盛よりは、少し前か)です。大臣、代議士、銀行、商社、不動産会社が絡み合って、巨額の“バブルマネー”が、飛び交っていました。

そこで得た収益を教団のものとして、課税ナシでやっていたのが鬼沢です。腹心の猫田(上田耕一)の手下のチビ政(不破万作)を社長に据えた「マサインターナショナル」なる会社をでっち上げて、地上げは全部、その会社がやった事にしていました。

そうやって掴んだ富の実体を探るために、亮子は新人・三島に風俗店への自腹での聞き込みを依頼(懇願!?)します。そのかいあって、風俗店の売り上げ金の流れを掴みました。みずからは、教団本部やマサインターナショナル内を盗聴(写真)して何とか突破口を開こうとします。

そして挙句の果てにはDVを受けた主婦を装い、信者になりすまして潜入、ついにそこで隠し部屋を見つけるのです。強制捜索の材料が揃った査察部は、いよいよ“ガサ入れ”へと動きます。

査察の対象は、教団本部、風俗店の別事務所、マサインターナショナルです。ここでの攻防のシーンでは、超音波で進路を邪魔したり、鬼沢がロールス・ロイスで逃亡するのを亮子が立ち塞がって止めたりと、スプラッター感を出した伊丹監督の演出も冴えてます。『~2』の臨場感も、なかなかのモノです。



鬼沢は取り調べに入っても、なかなか口を割りません。しかし、チビ政が射殺され猫田の屍体が海岸に流れ着きました。トカゲの尻尾切りというわけです。さらに、取調室にいる鬼沢も標的にされます。鬼沢さえ“トカゲの尻尾”だったのですね。その後、鬼沢は自分の子供を身篭った女(写真)と墓の地下に築いた秘密室に逃げました……。

「天の道教団」は脱税で挙げたものの亮子をはじめ、マルサの査察官は高台から納得のいかない目で地鎮祭を見つめています。視線の先には、鬼沢を操っていた政治家や銀行家、商社マン等が件の土地で顔を合わせ談笑しています。そこで本作は結ばれていますが、「いつか、あの巨悪を!」という余韻は感じられました。

伊丹監督は、「この『2』こそ本当は撮りたかったテーマ」と、公開後に語っています。ラストシーンの余韻こそが、テーマだったのかも知れないと筆者は思います。

相棒は東大卒のエリート官僚予備軍・三島

“小技”の効きは、演出だけではなくキャスティングにも!


今作では亮子にアシスタントが付きました。それが、東大卒でエリートの三島(益岡 徹)です。多分、近い将来は自分の上司になるであろう三島を、亮子はビシビシ鍛え上げて行きます。その三島の活躍シーンは二ヶ所あり、ひとつは鬼沢がオーナーの風俗店への“自費潜入”です。彼は人情噺で巧みにコンパニオンを誘導して、売り上げの流れを聞き出します。

もうひとつはガサ入れも担当した、その風俗の裏事務所を兼ねるマンション強襲時です。そこを管理している鬼沢の愛人(鬼沢家の女中・受口繁子)の逃走を、炎天下に隣家の屋根から延々と見張り続けました。

口だけではなく行動力も備わり「マルサの一員」に成長したという事実を、この二つのエピソードを描く事によって見せているわけです。やはり、伊丹監督は上手いと言わざるえないです。



前作では岡田茉莉子が妖艶さを披露して、映画ファンのタメ息を誘いましたが『2』でも“映画女優”が出演して話題をまきました。それが「天の道教団」の教祖役の加藤治子(写真)です。映画館で見ると特に美しさが“スクリーン映え”するんですよね。毛皮のコート姿もバブリーで綺麗です。

小ネタで言えば、ジャンボ杉田と高橋長英の『1』と『2』の連続出演にも要注目です。前者は関東蜷川会の蜷川会長の子分から、今回は猫田の子分へ。後者は銀行員から商社マンへの転身(笑)でした。ジャンボ杉田は伊丹十三の監督第二作『タンポポ』(1985年)で活躍した安岡力也の付き人経験もあり、その縁もあっての出演かと思われます。

そのほか今作では、ホステス(岡本 麗)と受口繁子(柴田美保子)の“パンモロ”シーンも効果的に挿入されているのも見ものです。

『女』シリーズのその後を追う!

一貫した社会風刺とエンターテイメント性の狭間で…

『マルサの女2』のエンディングを観る限りでは、続々編に当たる『3』を制作するであろうという予測も立てられていました。ただ、筆者が思うに毎年のように新作を公開していた伊丹監督のスパンでは『3』はまだ早いという印象があり、実際には娯楽色のより強い『あげまん』(1990年)が作られました。

『○○の女』のタイトル作品で言えば、『ミンボーの女』((1992年)、『スーパーの女』(1996年)、『マルタイの女』(1997年)の3本があります。これらの作品の中でも伊丹十三は、民事介入暴力(暴力団問題)やスーパーや食品メーカーの賞味期限ラベル張替え、宗教団体と社会問題にも取り組んで行きました。

取材を重ねていくうちに「マルサ」だけでは、対処できない事象が多く現れてきたのも、11年間『3』が作られなかった理由なのかも知れません。

志なかばで倒れた伊丹十三の功績

巨悪を追求する確固とした姿勢の手本として…

出典:https://www.amazon.co.jp

伊丹十三は1997年12月に、事務所から投身自殺をはかり死去しました。当時の報道によれば「不倫関係を、写真誌に嗅ぎつけられたため」とされています。その一方で「女性問題で自殺するような人間ではない」と証言する知人ら関係者も多く、いまだに原因がはっきりしない面もあります。

詳しくは分かりませんが、内外からの抑圧も多く、少し疲れていたのかも知れません。それまでのドキュメンタリー作家やレポーターとしての経験を生かしつつ、映画で新しい“巨悪との闘い方”を示したのですから……。その功績ははかり知れません。

伊丹監督は社会問題を常に念頭に置きつつも、エンターテイメントとして作品に「商品としての息吹」を加える手法を確立したと言っても過言ではないでしょう。それを具現化したのが『マルサの女』だったのではないでしょうか。

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