【オンリー・ゴッド】この暴力の世界にあなたは何を感じるのか?

暴力に染まった世界をある種の美しさを持って描き出す映画『オンリーゴッド』。過激な暴力表現やその難解さによって観る人を選ぶ作品だが、1度観始めたら目が離せなくなる。今回は『オンリーゴッド』の持つ魅力を書いていきたい。

「オンリー・ゴッド」とは?

「オンリー・ゴッド」は2013年にフランス・デンマークで公開されたクライム・スリラー映画。R-15作品。日本での公開は2014年。第66回カンヌ国際映画祭のコンペンション部門に出品されたが受賞は逃している。
監督・脚本はニコラス・ウィンディングス・レフン。主演はライアン・ゴズリング。レフン監督とライアン・ゴズリングは2011年公開の映画「ドライヴ」以来、2回目のタッグを組んでいる。
初めから、西部劇のようなスリラーで制作され、全て極東を舞台とした現代カウボーイヒーローのアイデアを私は持っていた(私訳)

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レフン監督は上記のように語り、「オンリー・ゴッド」のアイデアや脚本を暖め続けていた。また、当初はルーク・エヴァンズ主演の予定だったが「ホビット 思いがけない冒険」とのスケジュールの都合で降板。その後にゴズリングへ話が行った経緯がある。

「オンリー・ゴッド」の出演キャストは?

ライアン・ゴズリング-【ジュリアン/日本語吹替:内田夕夜】

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生年月日:1980年11月12日
出身地:カナダ/オンタリオ州
元々、子役タレントとしてキャリアをスタートさせる。2001年には映画「ザ・ビリーヴァー」で主演を務め、「きみに読む物語」(2004)で注目を集める。ここ数年では「ブルーバレンタイン」(2010)、「ドライブ」(2011)など日本でも知名度が上がる。
また、「ブレードランナー」の続編「ブレードランナー 2049」(2017)では主演を務め、今後の活躍も期待される俳優だ。音楽活動もしており、ゴズリングの友人と共にデッド・マンズ・ボーンズというバンドをやっている。
「オンリー・ゴッド」では主人公ジュリアンを演じる。寡黙であまり感情を表に出さない役柄だが、ゴズリングはジュリアンの内に秘める強い感情を観客にぶつけるような演技をしている。

クリスティン・スコット・トーマス-【クリスタル/日本語吹替:宮寺智子】

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生年月日:1960年5月24日
出身地:イングランド/コーンウォール州
1985年の映画「プリンス/アンダー・ザ・チェリー・ムーン」で初主演を務める。「フォー・ウェディング」(1994)で英国アカデミー賞助演女優賞、「ずっとあなたを愛してる」(2008)ではヨーロッパ映画女優賞を受賞している。
加えて、大英帝国勲章第2位に叙されディム(Dame)の称号を持ち、2005年はレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを受章。
「オンリー・ゴッド」ではジュリアンの母親クリスタルを演じている。冷酷無慈悲な役柄で、作品内で強烈な印象を放っている。息子たちに対して支配的な母親を、クリスティンは見事に演じきっている。

ヴィタヤ・パンスリンガム-【チャン/日本語吹替:仲野裕】

生年月日:1959年
出身地:タイ/バンコク
パンスリンガムは最初から俳優活動をしていた訳ではない。元々はニューヨークで彼の妻と共に生活をしていたが1987年にバンコクへと戻り、2010年に映画で初主演を務める。
「ニンジャ・アベンジャーズ」(2013)のサン将軍、「ルパン三世」(2014)のナーロンなどを演じ、「The Last Executioner」(2014)では第17回上海国際映画祭最優秀男優賞を受賞している。※「The Last Executioner」は日本未公開
「オンリー・ゴッド」では現役を引退した元警官役だ。一般人ではあるが刀やムエタイを使いこなし、私的に犯罪者を処刑している。サイボーグのように淡々と処刑する姿は登場人物の誰よりも恐ろしい。

「オンリー・ゴッド」の監督は?

ニコラス・ウィンディング・レフン

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生年月日:1970年9月29日
出身地:デンマーク/コペンハーゲン
レフンはデンマーク出身の映画監督、脚本家、映画プロデューサーである。1996年の映画「プッシャー」で監督・脚本を務めデビュー。ここ数年では「ラスト・リベンジ」(2014)、「ネオン・デーモン」(2016)を制作している。
また、「プッシャー」は「プッシャー2」、「プッシャー3」と制作され、「プッシャー」三部作は彼の代表作となっている。ヒンディー語版、英語版リメイクも制作された。

既に書いたが、ゴズリングスとは「ドライヴ」(2011)でタッグを組んでいる。この「ドライヴ」によって日本での知名度が上がる。ゴズリングスの演技もさることながら、独特の映像表現も見所だ。

「オンリー・ゴッド」の作品解説

あらすじ

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タイのバンコクでボクシングジムを経営するアメリカ人のジュリアン(ライアン・ゴズリング)は、裏では家族と共に麻薬ビジネスを行っていた。ある日、ジュリアンの兄(トム・バーグ)が売春をしていた少女を強姦の末に殺害してしまう。
しかし、被害女性の父親の報復を受けてジュリアンの兄は惨殺されてしまう。溺愛する息子を殺された母クリスタル(クリスティン・スコット・トーマス)は怒り狂い、ジュリアンに復讐を命じる。
麻薬ビジネスのトップに君臨するクリスタルは、その組織力を持って殺害に関わった人物を消し去る事が出来ると確信していたのだが・・・。そこへ元警察官のチャン(ヴィタヤ・パンスリンガム)が復讐を阻む

ラストはどうなる?

直接バンコクへ乗り込んできたクリスタルは、息子の殺害を裏で操っていたチャンを含む警官らを抹殺しようとする。が、チャンによってクリスタルが送り込んだヒットマンはことごとく殺されてしまい、やがて追いつめられていく
兄と違いクリスタルに憎まれながらも命令に従うジュリアンは、チャンと一対一で素手での対決をする。だが、全く歯が立たずに敗北。クリスタルもチャンに殺されてしまった
クリスタルの組織はチャンを慕う警官たちや、彼の家族を報復の為に殺害し始める。ジュリアンも参加するが、仲間を1人殺害した上でチャンの元へと出向いた。そうしてジュリアンは両腕を捧げ、チャンが刀を振り上げた瞬間に幕は下りる・・・

見所は?

見所の1つ目は特徴的な映像表現である。赤や青のコントラストの利いた色彩がバイオレンスな世界を引き立たせ、アルコールを吸ったときのように頭がクラクラとしてくる。まさに映像に酔いしれてしまうのだ。
見所の2つ目はゴズリングの演技だ。全体的にセリフの数が少なく、音楽や映像表現で魅せることの多い「オンリー・ゴッド」。ゴズリングはその中で、たたずんでいるだけでも圧倒的な存在感を放ち、何とも言えない緊張感を生み出している。
見所の3つ目はパンスリンガム演じるチャン。絶対的な強さ、冷徹さを持つチャンの存在はこの映画の肝になっている。チャンの戦いぶりを観ていると、もうこの人には誰も叶わないよなと思わされる。ジュリアンとの対決シーンは圧巻。加えて、たびたび挿入されるチャンの謎のカラオケシーンも必見

見所の4つ目は諸悪の根源クリステル。クリスティン・スコット・トーマスは、きっと100人観たら100人が大嫌いだと答えるであろう憎まれ役を完璧なまでに演じ、本当に素晴らしい。作品のアクセントとなっている。
見所の5つ目は何といってもラストシーン。両腕を前に出し、それを見つめるチャン。ある種の神々しささえ感じ、この映画を象徴するような場面となっている。ほんの数分のシーンなのだが、何十分も観ているように感じてしまう。

「オンリー・ゴッド」で描かれるものとは・・・

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さて、ここまで「オンリー・ゴッド」について書いてきた。ラストまでのあらすじを書いてしまったが、はっきり言ってこの映画は見なければ分からない。暴力的なシーンは多いが是非とも観て欲しい作品だ。
観ている間は流れる映像や物語に目を釘付けにされ、観た後は様々なシーンや映画そのものの持つ意味について考えてしまう

最後に書いておきたいのが「オンリー・ゴッド」というタイトルについてだ。このタイトルに映画を読み解く鍵がある。「オンリー・ゴッド」の原題は「Only God Forgives」、つまり「神のみの赦し」である。
ここで示されている神とは一体何なのか。映画を観てもらえばなんとなくでも察してもらえるだろうが、これはチャンである。どれだけ刺客を送り込まれても、返り討ちにしてしまうチャンは隔絶された存在だ。
チャンが日々行っている犯罪者の殺害。それは、神が行う裁きとして描かれている。もはや、殺しが善いのか悪いのかという話では無くなっていて、ただ神が罪を犯した人間を裁いてまわるという構図になっているのだ。

それをふまえた上で、ジュリアンの最後の行動について考えてみたい。元から、ジュリアンは殺された兄の復讐には乗り気でなかった。しかし、母親が直接やってきてジュリアンを散々になじる。
腕力では圧倒的にジュリアンが上のはずだ。けれども、ジュリアンは母クリスタルに対して反抗できない。抑圧されて幼少期を過ごしたからか、ジュリアンは倒錯した性癖を持つまでになっている
これはジュリアンの兄も同じであった。クリスタルに異常なまでの愛情を受けて育った兄は、暴力的な性行為を繰り返し、その果てに少女を殺してしまった物語の原因は母のクリスタルなのである

ならば、神としてのチャンは物語にどういった意味を持たせているのか? ただただ、無敵のキャラクターが悪人を討伐する映画だったら他にもあるし、ここまで「オンリー・ゴッド」の特異さを際だたせてないだろう。
私が考えるにこれは単なる復讐譚などではなく主人公ジュリアンが断罪を求めてさまよう物語なのではないだろうか。暴力シーンや演出に目が行きがちだが、奥にある意味というものを考えながら観てもらいたい。
ジュリアンの抱える罪。それは自分の父親を殺してしまったこと。もう1つは支配的な母親クリスタルに対して、いつまでも無力だった自分そのものなのだろう。だからこそ、最後にジュリアンは裁きを求めてチャンに両腕を差し出すのだ。