【あしたのジョー】力石徹はなぜ死んだ?永遠の宿敵を語り尽くす

ボクシング漫画『あしたのジョー』において、ジョーの宿敵としてストーリーの前半を盛り上げたのが力石 徹でした。ジョーと知り合った頃から、既に破壊力と天性のボクシング・センスを兼ね備えていた男・力石。その死因と軌跡に迫ってみました!

『あしたのジョー』永遠のライバル・力石 徹とは?

ジョーに屈辱感を味あわせた男



ジョーがボクシングに取り組むきっかけを造ったのが力石 徹でした。ジョーが東光特等少年院に入りたての頃、ジョーにハガキを届けに来たのが力石です。力石は既に、ウェルター級のボクサーとしてデビューをしています。13連続KOという輝かしい戦績を持ちながらも、観客の心無いヤジで暴行、少年院に送られていました。

その力石と些細な事で揉めたジョーは、力石にブチのめされます。しかし力石は、「最初のジャブがプロ級かと思ったら、ほかのパンチはド素人。おかしなヤツだ」と、ジョーを気にかけたのでした。以来、院内での特別試合でのWノックダウンを経て、プロで決着へ。力石にとってもジョーは、宿敵となっていきます。

ここから、プロでの決戦を誰が予想したでしょうか。筆者も「あんな事に」なるとは、思いもつきませんでした。

『あしたのジョー』ジョーの豚走劇を止めた力石のストレート

豚舎作業を利用して「豚ごと脱走」をくわだてる



ジョーは元来、生まれついての“自由人”であると言えます。それが、自分で犯した罪のためとはいえ1年1ヶ月も少年院に入れられているのは耐えられなかったのでしょう。いつしか、脱走のチャンスを狙っていたのでした。

そんな時に、鑑別所時代にジョーの左ジャブの餌食となった西(後のマンモス西)に、少年院で育てている豚を使って脱走できると助言されました。西もジョーも豚舎で作業していたのです。そこで豚をたきつけて暴れさせて、その騒動に紛れて逃げるという算段です。

力石のストレートが、ジョーの計画を打ち砕いた!

計画は、上手くいったかに見えました。ジョーは豚の一群とともに“娑婆”を目指します。すると、そこに力石が現れて、フットワークで豚の突進をかわしながら、ジョーが跨った豚に近づいていきました。「悪いな、新入り」と言いながら力石はパンチを繰り出し始めました。

そしてジョーの乗る豚に、正面から右ストレートを一閃!このパンチに豚もジョーもフッ飛びました。“豚座からの脱走計画も頓挫”というダジャレにもならない結果で、この計画は幕を閉じます。それにしても、初見では普通に読んでいましたが、筆者は大人になるにつれ「梶原一騎も無茶するなぁ」と思えてきたものです。

仮に豚を捉えてストレートを放てたとしても、素手で対峙した力石の拳もかなりのダメージを負ったはずです。それだけ、「力石の拳は硬かった」と無理に納得しています。

『あしたのジョー』力石のプロでの階級、そして決意

ウェルターからフェザーへ転向。そしてジョーの待つバンタム級へ



力石は少年院に入る前はウェルター級(リミット66.68kg)で快進撃を続け、出院後はフェザー級(リミット57.15kg)でカムバックしています。対するジョーは減量苦のない(後に体の成長とともに苦しむ)バンタム級(リミット53..52kg)です。

この違いではスポーツとして、試合は成立しません。その時、力石は「プロとして先輩のオレが降りていく」と男気を見せました。力石は、ジョーとウルフ金串の対戦を見て「本物だ」と感動して戦う意思を強めたのでした。しかし、元の階級から二回級も体重を落とす事は尋常ではありません。

力石は室内でストーブを焚いて、サウナ状態の中でのシャドー・ボクシング等でウェートを落としながらもトレーニングも断行。“鬼気迫る”といった表現がピッタリの調整には、脱帽モノとしか形容できませんでした。

己のプライドをかけてジョーと闘う!

力石はジョー戦を前にして葉子に言っています。「今すぐにでも、日本チャンピオンどころか世界チャンピオンになって金を稼ぎたい。でも、その前にやらなきゃならない事があるんですよ。矢吹を叩きのめす、というね」。力石にとってのボクシングは、富と名声を得るためのものでしか無かったのでした。

それが、少年院でジョーと出会い、“こいつとだけは、きっちりと決着をつける”と考えるようになっていったんだと思われます。それは、院内での対決を前に「1ラウンドじゃなく、1分だ」と宣言したKO予告(画像・下)を覆された屈辱が起因しています。

そればかりか、素人同然のジョーと引き分けた事が許せなかったのでしょう。、富や名声よりも“意地”と“プライド”によるものだったのです。「力石が力石たる由縁」は、ここにあると思いました。

「力石徹のテーマ」と愛車・ロータス7と…

クールさとダンディな面を併せ持った男



アニメ『あしたのジョー』で、力石の登場シーンになると決まって流れていたのが「力石 徹のテーマ」(作詞:寺山修司、作曲:八木正生、歌:ヒデ夕木)でした。劇中では主にインストゥールメンタルで流れていましたが、エンディングには歌詞を乗せたバージョンが41話~最終話まで使われています。「西伊豆ゴルフ場」を走る力石の姿(画像)が、やけに眩しかったのを覚えています。

普段の物腰はソフトでダンディ。白木葉子を「お嬢さん」と呼ぶくだりは、カッコよさが滲み出ていましたね。乗っているクルマもオシャレで、筆者の推察ですが「ロータス7」ではないかと。右ハンドルのオープン・スポーツカーとなるとトライアンフかMG、そしてロータスと、英国車に絞られてきますから。

疾走するオープンカー

出典:https://pixabay.com

そのクルマ(写真・下、イメージ。このクルマは輸出用の左ハンドル、色が赤という事を考えると欧州仕様かと思われる)を颯爽と走らせる姿が、アニメの1シーンにのみ流れました。力石には、似合っていましたね。

愛車がロータスだという根拠は、アニメ版『2』で葉子が丹下ジムを訪れる際に乗ってきたのがロータス・ヨーロッパだという点からも考えられます。どちらも、原作でははっきりと車種の特定はされていません。多分、出崎監督か周囲のスタッフの好みだったのではないかと思われます。

だとしたら、センスのいいセレクトと言えます。葉子のロータス・ヨーロッパはさておき、力石のロータス7はイメージに合っています。アメ車全盛の時代に英国車とは、選択が渋いし「らしい」です。

力石の名言に隠された、対矢吹戦のリングに上がる意味

心の中の“ふんぎり”をつけるために

力石がジョーと戦う理由は、要は“ド素人に引き分けたままでは、納得いかない”という事を解説しました。それをさらに端的に表したシーンがあるので、紹介しておきます。それは、力石がバンタム級転向のウェート調整に入った時の事でした。

白木ジムのサウナで汗を流していると、そこに葉子がやって来て、なぜ殺し屋のような男と試合をしたがるのか?と問いただしました。その時の力石の答えが全てを表しています。「たとえ階級が違おうと、オレと引き分けた男が同じ世界にいるのが許せんのですよ」。

さらに、勝算はあるのかを尋ねられて続けます。「ウルフもいい所までいったが、オレは矢吹対策をいくつも用意しています」と、力石は断言しています。自信が伺えて、頼もしく見えました。この段階では、ジョー戦は「ステップ」に過ぎないという位置づけだったんですね。

白木葉子の暖かい目の重要性

時には母のように

いよいよ減量が佳境を迎えてくると、力石は泊まり込んでいる白木ジムの水道の蛇口を針金で縛ってとめてしまいます。こうしておけば、夜中に誘惑に負けて水を飲んでしまう事もないだろうと考えた行動でした。しかし、肉体的にも精神的にも極限をとうに超えていた力石は蛇口を破壊して水を飲もうとします。

そこに現れた葉子は、「いきなり水では体にさわるから、白湯をどうぞ。これくらいの白湯を飲んだからといって、急にウェートが増える事もないでしょう」と、コップを差し出しました。多分、この時の葉子は力石には“菩薩”に見えたのではないでしょうか。

そこで我に返った力石は、「ありがとう お嬢さん。その気持ちだけ、受け取っておきます」と、白湯を捨ててしまいました。葉子に、母性愛に満ちた菩薩のような一面もあると認識できたシーンでしたね。

ジョーとの決着は、得意のアッパー・カットで!

“クロスカウンター封じ”はノー・ガード戦法だった!

いよいよ宿敵同士の対決、バンタム級8回戦のゴングが鳴りました。力石にとっては、バンタム級転向後2試合目となり、前試合でキレのあるアッパー・カットを放ち、減量でフラフラながらも健在ぶりを示しています。ジョーも、段平と西(同丹下拳闘クラブ所属)を相手にアッパー対策を施してきていました。

本来ならばテクニック的にも勝る力石が優勢に試合を運ぶのが常道ですが、減量が響いて試合は均衡してきました。そうした展開の中、6Rに突然力石がノー・ガード戦法の構えを見せたのです。

始めは驚き、心意を図ろうとしたジョー陣営でしたが段平とジョーはすぐに力石の作戦に気づいたのでした。“この構えから、クロスカウンターを狙っている”と。そうなると迂闊には手を出せないので、ジョーもノー・ガードで対応するしかありませんでした。

クロスカウンターではなく、狙っていたのはアッパー・カット!



両者ともノー・ガード戦法のために、試合は動きがなくRだけが進んで行きました。と、ここでジョーは、痺れを切らして自ら先に打って出てしまいます。「こいつを弾き返して、右のダブルクロスで勝負!」とばかりに、右ストレートを打ち込みました。

ところが、ジョーが渾身の右を打ち込んだ先に力石の姿はありません。「!?」。力石は体を沈めてストレートをかわして、アッパー・カットを“天にも登らん”とばかりに突き上げたのです。

この必殺ブローを受けたジョーは、上体が浮く勢いでフッ飛びました。このパンチで、少年院からの因縁に決着がついたのでした。「終わった…なにもかも…」、力石のこの呟きは深いです。試合自体の事なのか、それとも全てが終わったのか。この試合の結末は、ただただ悲しかったです。

『あしたのジョー』の悲劇!力石の死因と葬儀

力石は、なぜ死んだのか

ジョーは試合には負けましたが、気分的にはサバサバしていました。それほど、完膚なきまでにやられたという事を認めていたのでしょう。ジョーは、アッパーの衝撃から覚醒し「さすがは力石、あそこでアッパーがくるとはな」と、握手の手を差し出しました。

ところが、握手をするかに見えた力石はそのまま倒れ込んでしまい還らぬ人となってしまったのです。原因は極度の減量による衰弱に加えて、6Rに受けたテンプルへの一打(画像・上)と、その時に倒れ込んだ際、ロープに後頭部で頭部を打った衝撃によるものとの事でした。

「何もかも終わった」というのは、こうなる事態を予感していたと思えてなりません。ここで『あしたのジョー』のストーリー自体も袋小路に迷い込んでいったように見えました。

リアルに執り行われた力石の告別式

この力石の死は、衝撃を呼びました。漫画のストーリー上の出来事にも関わらず、告別式(文京区・講談社講堂)が執り行われたほどだったのです。ボクシングファンでもあり、『あしたのジョー』のアニメ化にあたっては、主題歌と「力石 徹のテーマ」の作詞も手がけた戯曲家・作家の寺山修司が弔辞を読むなど、話題性にさらに輪をかけた模様です。

この力石の死によって、読者を辞めたファンも多く筆者の叔父もそのクチでした(コミックスは全巻揃えてましたけど)。また、死後もアニメの放映は続いており、エンディングの「力石 徹のテーマ」は、虫プロ版が終わるまで流されていました。ここでも、人気のほどが分かろうというモノですね。

勝負に殉じた「孤高のヒーロー」力石徹

『あしたのジョー』の助演ではなく、W主演の一人

力石 徹というキャラは、前半部分を盛り上げた立役者であった事は明白です。その影響力は凄まじく、ジョーの東洋タイトルマッチの金 竜飛戦にも力石の亡霊がつきまとった程でした。前半部分に限れば、ジョーとともに主役を張っていたと言っても過言ではないでしょう。

では、その魅力とは何だったのでしょう?筆者は、力石が発言通りに「金を稼いで、名声も手に入れたい」行動に突き進んで行ったのではなく、ジョーとの決着に気持ちがシフトされていったからだと思っています。そのために、「よりストイックに」「より真摯に」ボクシングに向き合った事が、ファンを広めていったように思えるのです。

「無人の野を往く」や「孤高の」といった形容詞がピタリとはまる男。それが、力石 徹だったのではないでしょうか。こちらの記事もオススメ!

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