不気味な嫌悪感と美少女達…新世界よりの魅力を考える

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ハードSFを原作とした新世界より…及川徹先生の描く可愛い美少女ときわどい描写に目が行きがちな本作ですが、よくよく見てみると非常にダークな雰囲気にあふれています。そんな新世界より…の魅力を深堀していきます。

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導入

『新世界より』このタイトルを聞いてドヴォルザークの楽曲を想像されるクラシック音楽ファンの方もいらっしゃるかもしれません。
実際タイトルはドヴォルザークの楽曲を元ネタとしているのであながち間違ってはいませんが、本作はアフターアポカリプスもの…いわゆる文明崩壊後の世界を舞台としたサイエンスフィクション漫画です。
今時の漫画らしいかわいらしい絵柄ながらも不気味さ漂う本作の魅力を掘り下げていきましょう。

原作・作者の紹介

本作には原作があります。
原作は小説で、黒い家や悪の教典といったホラー小説の大家である貴志祐介先生によって執筆され、講談社文庫よりは発売されました。
本作はライトノベルやジュブナイル小説ではない、純粋なハードSF小説で、のどかに見えるもどこか危うく・不気味な雰囲気の漂う神栖66町を舞台に、呪力(じゅりょく)と言われる超能力を操る人々の生活とその崩壊を描いた大作でした。

本作に付きまとう不気味な嫌悪感

さて、コミカライズとなる本作は、一部変更点こそあるものの、ほとんど原作と似たものとなっており、作画の及川徹先生の可愛らしい絵柄のおかげもあって、原作以上にのどかな雰囲気となっています。
自然と調和した美しい街
貨幣制度もなく、他者を愛することを教えられて育った人々による穏やかな生活。
争いも諍いもないまさに理想郷とも言うべき世界です。
一方で、何かの影に怯える様
バケネズミという異形の生物の存在
そして過度な(同性間でも行われる性的な)スキンシップ…
騒動が始まる前から、作中の理想郷はどこか無理やり作られた歪さが感じられました。

舞台設定

舞台は現代より1000年後、地理的には現在の茨城県に位置する呪力を持つ人々の町・神栖66町。
前述の通り、全員が呪力という超能力を持つ人々で、人口は3000人程です。
大きさは周囲50㎞程、利根川から流れてくる豊富な水と豊かな自然に恵まれています。
教育制度は小学校とその上にあたる全人学級という上級学校あり、ここで呪力とその扱い方を身に着けていきます。
呪力は後述の通り非常に強力で危険な力なので、その扱いには大変注意が必要なので、呪力をきちんと身につけないと小学校を卒業できない仕組みとなっています。
貨幣制度は存在せず、相互の無償の助け合いによって成り立っている社会となっています。
ちなみにこの時代の日本には神栖66町以外にも8つ町が残っている事が知られており、それらは北海道の「夕張新生町」から九州に位置する「西海77町」までがあり、人口は全てで5~6万人ほどとなっています。

しかし、超能力など持たない人口1億2000万人の日本から、その0.5%程の人口の呪力者のみが生きるこの日本に至るまでの1000年間、一体何があったのでしょうか。

歴史

始まりは西暦2011年にアゼルバイジャンで行われた実験でした。サイコキネシス、後に呪力の存在が科学的に立証されると、世界各地で呪力を持つ人々が発見され、人口の0.3%が呪力を持つに至りました。

この力を恐れた非能力者の弾圧から始まった抗争により現代文明は崩壊し、世界人口は最盛期の2%程度まで減少するに至りました。

そして戦乱の後、口述される様々な施策の結果、ようやく文明は安定しましたが…この凄惨な歴史は一部の人間以外には知られていないこととなっています。

呪力

現代では念動力・サイコキネシスなどと呼ばれるこの力は、イメージしたことを自在に具現化できる能力です。
目標を眼で確認して発動しますが、この能力の大きな特徴として、『操れる力に際限がない』という点が挙げられます。
能力者本人の集中力・体力が続く限り力を行使でき、その力は大量殺りく兵器すら容易に上回ります。
一方で、呪力による攻撃を呪力で防御する事はできません。
つまり呪力による攻撃はすさまじい威力を誇るけれど、防御はできないという非常に危険なものとなっています。
その為、過去の科学者達は「攻撃抑制」(こうげきよくせい)と「愧死機構」(きしきこう)という2つを遺伝子に組み込む事で能力者による破滅を防ぐ手立てとしました。
また、呪力は目で見たものしか効果を発揮できないという特性上、銃火器や毒ガスといった「目視できない攻撃」に対しては無抵抗となります。

愧死機構(きしきこう)

呪力の非常に危険な特性を制御する為に攻撃抑制(こうげきよくせい)と共に呪力を持つ人間の遺伝子に組み込まれた機構です。
同種である人間を攻撃しようとすると作動し、自身に呪力をかけて発作を起こします。
それでも無理やり攻撃をしようとすると自身の呪力で『自滅』してしまうことになります。
その為、この時代の呪力を持つ人々は人間を攻撃することができないのです。
また、この機構は教育によって付加・強化が可能で、神栖66町の人々が穏やかな性格で、性別問わずに愛し合い、性的な接触を行うのは愧死機構に一役を買っています。

バケネズミ

哺乳類で唯一の真社会性生物であるハダカデバネズミから進化したとされる生物です。
呪力を持つ人間を「神様」と崇め奉っています。
元のハダカデバネズミ同様、女王を中心としたコロニーを形成しており、知能は高く(人間並)、バケネズミ語という独自の言語(人間にはキュルキュルという音に聞こえる)を使います。
一部の上位個体は日本語を使用可能で、人間の為に働いたり貢物を収めたりしています。

というのが通説ですが、実は彼らは呪力を持たない人間の成れの果てでした。
これは一部の人間にしか知られていない事です。
醜い外見をしていて、人間ではないと伝えられているのは、愧死機構を発動させない為です。

悪鬼(あっき)

神栖66町に伝わる伝説で、子供たちは町の外に出ると悪鬼に襲われる、と脅されています。
実際は遺伝子異常の為に攻撃抑制および愧死機構が機能せず、無差別に他者を虐殺する呪力者の事です。
悪鬼の存在は非常に厄介で、他の人々は愧死機構の為に悪鬼を殺せず、悪鬼は自由に殺戮できる為、一方的な惨殺劇となります。

登場人物

そんな不安定な理想郷に住む登場人物達は以下の通りです。

渡辺 早季(わたなべ さき)

本作の主人公です。
小説版は彼女の一人称視点で語られます。
非常に芯の強い人物で、禁忌と言われる知識(呪力の発見からの呪力による虐殺、バケネズミの正体)を知ってもすべてを受け入れ、前に進む強い精神力を持っています。

スクィーラ / 野狐丸(やこまる)

バケネズミのコロニーであり「塩屋虻コロニー」の上役であるバケネズミの彼は、人間に対して下手に出ていました。
しかしある時自分達の存在理由を知った事と過去の文明の知識を得た事で急速に力をつけていき、強大なコロニーを形成していきます。
後述のメシアを手に入れた事で人間たちに反旗を翻し、様々な策で人間を虐殺していきますが…。

奇狼丸(きろうまる)

「大雀蜂コロニー」を支配するバケネズミです。
身長1m程度の不気味な無毛の大ネズミである他のバケネズミに対して、彼は身長は普通の人間より大きく、筋骨隆々な体と立派な髭をたくわえています。
伝統を重んじる性格で、人間に忠誠を誓っていますが、それも本能的な恐怖ではなく、自分達のコロニーを第一に考えている為という合理的なものです。

メシア

早季同級生であった秋月 真理亜(あきづき まりあ)と伊東 守(いとう まもる)は、禁忌を犯してしまったために神栖66町を去り、スクィーラを頼って塩屋虻コロニーへと向かいました。
最初は快く迎え入れたスクィーラでしたが、歴史の真実を知った後、二人が子供を産むや否や殺害し、子供はバケネズミとして育てられました。
それがメシアです。
自分自身をバケネズミだと信じている為、人間相手に攻撃抑制と愧死機構が働かず、神栖66町の人々を一方的に虐殺していきましたが、最終的に同族(と信じ込んでいた)奇狼丸を誤って殺害してしまった事で愧死機構が働いて死んでしまいました。

総括:ただの可愛い女の子の百合ものではない!

新世界より…を始めて手に取って感じるのは「女の子が可愛い」「女性同士がいちゃつく」といった月並みな美少女漫画の様な評価でしょう。
しかし中身は非常に作りこまれたハードなSFです。
また、理想郷に見えた神栖66町が、実は呪力という極めて危険な力を持った人々ががんじがらめのルールによって危ういバランスを保っている非常に危険な世界であること、そしてその世界が地球人口の99.3%が死ぬかバケネズミにされてしまった事でようやく得られた平和であることもわかります。
また、その残酷な世界観が生々しく描かれています。
バケネズミの不気味な活動と反逆、そして信じられないほど残酷な戦術。
貴志祐介先生の想像力で作られた世界が及川徹先生の画力で生々しく、不気味に描かれています。
女性同士の百合漫画として読めば後悔してしまうこと請け合いですが、1つの壮大なSF作品として読むなら非常に面白い作品なのではないでしょうか。

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