元祖日記漫画家の栄枯盛衰…桜玉吉先生を知っていますか。

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ゲームパロディ漫画に日記漫画…現在SNS等で当たり前に使われてるこの手法。その元祖たる桜玉吉先生の魅力に迫ります。

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桜玉吉とは

1980年代、元々はパソコン雑誌『ログイン』の1コーナーであった『ファミコン通信』が隔週連載の雑誌として産声を上げました。
そのファミコン通信の創刊と共に始まったギャグ漫画『しあわせのかたち』。
日本で一般的な漫画と逆開きで、1ページ5段という超変則型のコマ割りと、当時としては非常に珍しい、ファミコンを題材にしたパロディ漫画という目新しさから、ファミコン通信の目玉的な作品となりました。
その作者こそが、当時まだ駆け出しのイラストレーターであった桜玉吉先生でした。
当時まだ20代前半の先生は若さ故の勢いとまだまだ著作権や肖像権が緩かった時代であることもあって、様々なパロディ漫画を描きまくりました。
特にドラクエ2のパロディ回で登場したおまえ、こいつ、ベルノの3人は大人気キャラとなり、フィギュアが発売されたり、後にOVAとなったりと当時は大人気を博しました。

アスキーコミック、コミックビームにつながるアスキー漫画部門の原点

このしあわせのかたちの人気が契機となり、これまでアスキーにとってノータッチだった漫画に同社が注目する様になり、漫画部門ができあがり、後の人気雑誌であるアスキーコミックや、現在でも毎月発売され、テルマエ・ロマエなどを生み出したコミックビームへとつながっていく事になりました。
そう考えると桜玉吉先生がいなければ後の名作が発売されなかったというわけで、なんだか感慨深いものを感じますね。

ちなみにコミックビーム創刊時の編集長であり、アスキー系の漫画によく顔を出す奥村勝彦さんは、元々秋田書店で編集のお仕事をされていましたが、玉吉先生との縁からエンターブレインへの移籍を決めたといわれています。

ゲーム漫画から日記漫画へそしてその先へ…。

さて、そんな玉吉先生ですが、しあわせのかたちの連載中に、首を痛められて戦線離脱となってしまいます。
玉吉先生がお休みされている間にファミコン通信は隔週から週刊に代わり、しあわせのかたちも『週刊しあわせのかたち』と名前を変えて再スタートを切る事となります。
しかしそれまでのファミコンのパロディ漫画から、作者の日常を描いたいわゆる『日記漫画』へと作風で大きく舵を切り、釣りやファミコン、そしてアシスタントや編集者と遊び歩く日々を描いた漫画となっていきました。

時にはまっっっったく関係のない『暗黒舞踏』をテーマにした漫画を作中で連載してみたり、同じくファミコン通信内であんまりテレビゲームと関係のない話ばかりやっている竹熊健太郎先生・羽生生純先生の『ファミ通のアレ(課題)』(ふぁみつうのあれかっこかだいかっことじる)とコラボしてみたりと、玉吉先生曰く『ファミ通で最も野放図な場所』として好き勝手やっていました。

そして更なる変換を迎えます。

それは思いつきで始めた『しあわせのそねみ』という回です。

これまで玉吉先生の絵柄はファンシーでかわいらしいものでしたが、『そねみ』の回については劇画的というか不気味というか…なんとも言えない絵柄で、登場するキャラクターが全体的に意地悪く、世間をやっかみ、仲間を敵視し、非常に暴力的というひどい回でした。

その作風のひどさから、高校時代から共に漫画を描き、着色を手伝ってくれていた『ちょりそのぶ』(本名・牧野伸康(まきののぶやす)氏…3Dモデラ―として有名な方で、Mother2のモンスターの造形などを手掛けられている方です)氏からも

「もうこの絵に色を塗りたくない」

と失踪されてしまったほどです。

ほどなくして読者からも不評を買い倒してこの絵柄は辞めてしまった…はずでしたが、作者と一部のファンにとっては非常に心地よかった様で、玉吉先生のこの後の漫画は基本的に『そねみ』をベースに作られています。

作品リスト

そんなしあわせのかたちとその後の日記漫画で有名な玉吉先生ですが、実は多作な方で知られています。
ゲームの紹介漫画(?)や海外のファミコン雑誌での漫画連載、そして下品すぎて大問題になった作品とバラエティに富んでいます。

しあわせのかたち

前述の通り、ファミコン通信創刊時から連載されていた作品です。
玉吉先生の代表作であり、ゲームのパロディ漫画・日記漫画の先駆けと言う、後の漫画史に与えた影響が非常に大きい作品と言えるのではないでしょうか。
ガレージキットやOVA、そしてドラマCD等等、様々なメディア展開がされた作品でもあります。
後期日記漫画の中で連載されていた、暗黒舞踏を題材にした日本唯一(?)の漫画である『ラブラブROUTE21』(らぶらぶるーととぅうぇんてぃわん)は2015年、連載終了から20年以上を経て突如実写映画化するという珍事が起こりました。

漫玉日記シリーズ

しあわせのかたち終了後、しばらくして『トル玉の大冒険』から始まった、いわゆる『漫玉シリーズ』は『トル玉の大冒険』、『防衛漫玉日記』、『幽玄漫玉日記』、『御緩漫玉日記』の4作が該当します。
ゲームネタは皆無となり、作者とその周辺の人間関係が赤裸々に語られる作品群で、自身のうつ病の発症や離婚の話、果てはアシスタントとの関係等が語られています。
楽しそうに描いていた作品でしたが、鬱の悪化や自身を含む周囲の人間(主に元担当のヒロポン)の生活の悪化から、徐々にこのシリーズが本人の心を蝕むこととなっていき、作中でも

「周囲の人間をいじくり倒し本当にロクな者ではない。こんな事でしかメシを食えぬ人間」

なんて精神的に自分を追い込む書き方をしています。

なぁゲームをやろうじゃないか!!

アスキー系の雑誌ではなく、講談社の月刊アフタヌーンで連載されていた本作は、テレビゲームをネタにした漫画という、玉吉先生の原点回帰とも言うべき作品のはずでしたが…ふたを開けてみると作者がタイトルを強引にダジャレで捻じ曲げて、それをネタに旅行にいって遊び倒す、ゲームと全然関係のないいつも通りの日常漫画となっていました。
例えば『恋予報』(こいよほう)を『濃いよ、ほう』と言い換えて秋葉原等のディープ(濃い場所)な場所に遊びに行ったり、『ムジュラの仮面』を『ウズラ農家MEN』と言い換えてウズラ農家を見学に行ったりとやりたい放題でした。
一応そんな状況をフォローする為、編集のエムカミ君が最下段で元ネタのゲームを紹介するという形をとっています。

ゲイツちゃん

その名の通り、マイクロソフト創設者のビル・ゲイツそっくりの青年が、何かにつけて「キーっ!」と怒りを爆発させるサイレント(ほとんどセリフのない)ギャグ漫画となっています。
とにかく勢いのある(勢いだけの)漫画ですが、なんだかゲイツちゃんの怒り顔が癖になる、そんな漫画となっています。

ブロイラー親父FX

前述の秋田書店の編集者・奥村勝彦さんと組んで連載していた非常に下品なギャグ漫画です。
股間から常にポロリしている変態のおじさんがセクハラをしまくるというそれ以上もそれ以下もない作品です。
届くはがきのほとんどが「下品すぎる」という意見だったそうです。

SUPER MARIO ADVENTURES マリオの大冒険

多摩美術大学の同級生でもある竹熊健太郎先生原作の本作は、アメリカのゲーム雑誌ニンテンドーパワーで連載されていた作品です。
その名の通り、マリオを原作とした作品となっており、この作品に限り桜玉吉ではなく『チャーリー野沢』(ちゃーりーのざわ)名義での執筆となっています。
アメリカの雑誌に日本の漫画家が1年間連載を続けるという他に例のない作品と言われています。

読もう!コミックビーム

その名の通り、奥村編集長のコミックビームを応援する漫画です。
主にファミコン通信等で連載されていた四コマ漫画ですが、(あくまでネタとして)休刊になる、廃刊になるとネタにしているうちに週刊誌で休刊の噂が流れたという曰く付きの作品です。
初期の頃こそビームを応援していましたが、途中から方向性が変わっていき、玉吉先生のいつもの日記漫画になってしまいました。

日々我人間

2013年、沈黙を保っていた玉吉先生が突如連載を開始しました。
雑誌はまさかの「週刊文春」。
過去の作品では漫画喫茶にこもって漫画を描いていた玉吉先生ですが、伊豆に住居を移し、蟲と戦い、家が遠いと奥村さんから文句を言われる日々が描かれています。

現在の玉吉先生

玉吉先生は当然実在の人物で、その人生の大部分を漫画にされています。
しかし、それはあくまでフィクションとノンフィクションを巧に混ぜあげたもので、100%本当の玉吉先生ではありません。
しかし、一人娘がいるが、奥様と離婚をされている事、仲の良かったお父様が他界されてしまった事、一時期同棲していたぱそみちゃんと別れてしまった事など、ランドマーク的な話は恐らく事実でしょう。
玉吉先生は少なくともご健在で、今では伊豆で生活されています。
かつて『防衛漫玉日記』で描かれていた人生計画では60歳で釣りの最中、足を滑らして転落して死亡と書かれていました。
そして2021年、玉吉先生は60歳となります。
人生計画は大きく狂っていると思いますが、まさか結末を合わせようとしているでは…と不安で目が離せなくなりますね。

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