【新感覚SS】もし艦これの長門と2泊3日で旅行に行ったら?

艦これの長門さんと提督が2泊3日で旅行に行ったらどうなるかを書いてみました。

――――二一三○。呉鎮守府、提督執務室。

『本日モ晴天ナリ。日々寒サ厳シクナリテ、近日雪降ラムト見ユ』

ぶ厚めの日記帳にペンを走らせる音がやけに大きく聞こえる室内は、先日やっとの思いで運び入れた大型のストーブのおかげで暖かい空気に満ちていた。うっかりすると眠くなってしまうのはまあ仕方ないだろう。

区切りのいいところで筆を休め、窓から鎮守府の様子を眺める。先週あたりから急に寒気が南下してきたようで、窓枠には結露がびっしりとできていた。カーテンを閉め、再び椅子に腰を掛けたところで今日最後の演習に出ていた艦が帰投した知らせが来た。

「失礼する」

入ってきたのは秘書艦の長門だった。彼女はいつも通りの凛とした表情で成果を報告する。

「本日最後の演習は第六駆逐隊を含む、近海における防衛線を想定して行った。彼女らも頑張ってはいるがいまいち練度が足りていない。特に砲撃に関してはまだまだ訓練の余地があるだろう。哨戒も兼ねて行ったが特に異常なしだ」
「ご苦労だ。第六の子らはまだここに来て日が浅いからな、少し長い目で見てやってくれると助かる」
「了解した」

私は立ち上がって酒棚を開き、手に入れたばかりのウヰスキーをグラス二つに注いだ。一つを彼女に差し出す。

「ほら」
「まだ執務中ではないのか?」
「たった今終わったよ、さあ飲もう」

彼女はやれやれ、とばかりに軽く肩をすくめてグラスを受け取ってくれた。

「「乾杯」」

チン、と小気味いい響きがした。

「……美味いな。高かったのではないか?」
「どうせ頂き物だ、気にするな」
「そうか」

……どちらもグラスの中が寂しくなってきたころ、私は彼女に声をかけた。

「長門、私は明日から少しここを空けるぞ」

すると彼女は少し目を見開いたが、応と返した。

「そしてお前もだ、少し暇を取らす。明朝○五○○出発だ、遅れるなよ」
「なんだ、どこに行くのかも告げずに呼び出すとは男の風上にも置けないな」

カカ、と笑って彼女はグラスを置き執務室を出て行った。
ああは言うが黙って付いてきてくれるあたり、私を信用してくれているのだろう。そう勝手に思うことにしてグラスを片付け、私も執務室を後にした。

――――○五○○、鎮守府通用門前。

出典:https://pbs.twimg.com

「よう、来てくれたな」

いつもよりラフな格好――デニムパンツに白のインナーと紫紺の革ジャケット――で現れた長門は、時間通りに来た。

「おはよう、提督」
「おはよう。いいな、その服似合っているぞ」
「そうだろう?服のセンスがいいからと摩耶に借りたのだが、少し胸元がきつくてな…」
「長門はスタイルがいいからなあ。破くなよ?」
「ば、馬鹿者!ほら、さっさと乗れ。まったく……」

真っ赤になりながら背中を押してくる彼女の様子に思わず笑みがこぼれてしまいそうになるが、頑張ってこらえながら馬車へ乗り込んだ。
そして、試着の時に摩耶の悔しそうな顔も容易に想像できた。どうせ服はダメになるだろうしお土産でも買って帰ってやろう。
そんなこんなで、私たちは出発した。

陽が昇り、冷たさが残る空気を柔らかく照らし始めたころ、長門が声をかけてきた。

「提督」
「ん、どうした?」
「いや、私はこれからどこに行くのかそろそろ教えてくれないのかと」
「あぁ、忘れていたよ。今回は俺の家に帰るんだ」
「そうか、提督のご実家にかえ……なんだと?」

彼女は一度納得しかけたが、気づいてしまったようだ。ちっ。頭がいいのも考え物だな。

「そうだ、俺の実家だ」
「まてまてまてまてまて」
「なんだ、何か不満があるのか?」
「あるに決まっているだろうっ!」

ガチン、といい音がした。無論、今のは長門が勢いよく立ち上がって馬車の天井に頭をぶつけた音だ。そんなに慌てることでもないだろうに。当の本人はまさか馬車に当たるわけにもいかず、頭をさすりながら私をにらんでいた。

「場所は福岡なんだが、こればかりは動かしようがないからな…」
「いやそうではなく!」
「美味い物もいっぱいあるぞ」
「そう…なのか。ってそれも違う!」
「ならば何が不満なのだ?」
「うぇっ!?そ、それはだな……」

彼女は急に顔を赤らめたかと思うと、私から目を逸らしもじもじし始めた。そして、私に聞こえるか聞こえないかくらいの声で主張した。

「それではまるで私が……りす……たいでは……いか……」
「なんだって、リス?鯛?」
「だから!それでは私がまるで嫁入りの挨拶に行くみたいではないか、と言ったのだっっ!!」
「そうだが?」

ガチン

あ、またやった。しかしまあ事前に伝えなかったのは悪かったか。反省しておこう。

「大丈夫ですか~?ずいぶん大きい音がしましたが…」

そんなことをやっていたら御者が心配そうな声で尋ねてきた。

「ああ、問題ない!驚かせてすまないな」
「それならいいのですが」

御者にそう声をかけ長門のほうを振り返ると、彼女は顔を赤らめたまま再び頭をさすりながら私をにらんでいる。落ち着きが足りないな、うん。

「何か?」
「いや、なんでも」

こういう時は触らないのが吉、だったか。
鎮守府で長門の代わりに秘書官を務めている妹艦が頭に浮かんだ。さすが、わかっているな。

「それで、不満はそれだけか?ならあとはゆっくり馬車の旅を楽しめ。あぁ、途中で乗り換えるから寝たかったら寝ていてもいいぞ。今日は朝から連れまわしてしまっているからな」

そう言って私は彼女の髪を軽く梳いた。本当にいつ触ってもいい心地がするな。

「まあいいか。この際黙って連れていかれるとしよう。提督の親君には一度お会いしたかったしな。それと、私を誰だと思っている。多少の睡眠には打ち勝って見せないとビッグセブンの名が泣くというものだ」
「辛くなったら遠慮しないでいいからな」
「っんん!」
「はいはい、わかったよ」

わざとらしい咳払いに負けた私は引き下がることにした。しっかり毛布を用意して。

――――数時間後

私のひざ元には、安らかな寝息をたてている長門の姿があった。

「……まあおよそ察していたけどな。さすがはビッグセブンだ」

くしゃりと頭をなで、私は御者に尋ねた。

「あとどれくらいで中継地点だ?」
「はい、およそ二刻というところでしょうか。ご休憩ですか?」
「いや、そのまま走らせてくれ。馬の休みはいらないのか?」
「はい、最近は馬車も馬も良いのが出回っております。特にこいつらはいざというとき軍馬にもなりますからね。やわな鍛え方はしていませんよ」
「それは重畳」
「お連れ様はお休みで?」
「そうだな、当分起きないだろうよ。着く頃には嫌でも起こすがな」
「わかりました」

いい御者だ、当たりを引いたな。
そんなことを思いながら馬車の外の景色に再び目を向けた。

「待っていてくれよ、母さん……」

温かな重みを確かに感じつつ、私は家へと近づいていくのであった。

――――二二三六。福岡、提督の実家前。

「……ついに来てしまったのだな、提督のご実家に。」
「まあな」

結局乗り換えの馬車に移る時も起きることはなかった長門を担いで乗せ換え、新たな馬車で自宅前までたどり着いたのだった。ずいぶん寝たからか、気分がよさそうだな。

ガラガラと玄関口を開く。一歩踏み込んだ瞬間、懐かしい夕餉の匂いがした。さすがにこの時間だと誰も起きていないのか、家は静寂に包まれていた。

「ほら、なにしてる。早く入れよ」
「だ、だって……わわっ」

いまだに家に入れずにいる長門の手をつかみ、中へと上がった。
……柔らかい手だな、ずっと握っていたいくらいだ。

「少し遅くなってしまったようだ。離れのほうに行こう、そこに私の部屋がある」
「そうか…。何か申し訳ないな」
「ほう、どうしてだ?」
「この家に入ったとたん、提督と初めて出会った時のような感覚を覚えたのだ。懐かしいような、寂しいような、そんな気がしたからつい言葉に出してしまった」
「遠慮はいらんよ。もうじきお前も家族になるのだから」
「ばっ馬鹿ッ!もう、そういう恥ずかしいことを平気な顔で言うな!」
「はっは」

ポカポカと背中を叩いてくるが、こんなもの甘噛みのようなものだ。本気でやられたらちょっと命の保証ができない。
私たちは離れまで移動しようと玄関口を出た。

「おや、誰かえ?」
「え?」
「なんじゃ、帰って来よんなら文でも出さんかい」

その先には、ずいぶんと元気そうな俺の母親の姿があった。

「出したんだけど。返事ももらったけど。ところで」
「そうだったかえ、わすれちまったわ」
「……まあいいや。ただいま、母さん。ところで」
「してそちらのかわいいお嬢さんがあんたの嫁さんかい?」
「そうだ、長門だよ。長門、こっちはもうわかってるとは思うが俺の母親だ」

長門は丁寧に腰を折り、母親に挨拶した。

「はは、初めまして、長門ですっ。そ、その、提督のひょ、嫁、にしていただくことになっています。本日は夜分に押しかけてしまい申し訳ありませんでした!」
「初めまして、この不孝息子の母だよ。ちょうどいま寄合から帰ってきたところさね、あんたが気にすることなんかないよ」
「恐縮です!」

私は大いに安堵した。案外うまくやれそうな雰囲気じゃないか、これは。しかし長門が敬語を使っているのはやっぱり違和感あるなあ……。

「この時期、外で長話なんかするもんじゃない。明日ゆっくり話をするとして、もう寝たほうがいいだろうよ」
「ああ、ありがとう。お土産は台所の机に置いておいたから」
「わかったよ」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみよ。なんもないとこじゃけんど長門さんもゆっくりしていっておくれ」
「お心遣い痛み入ります。おやすみなさい」

私たちはようやく離れにたどり着き、中へと上がった。

「夕飯はさっき食べたからいいとして、風呂はどうする?」
「ふむ……。明朝一番で入りたい」
「やっぱりそうきたか」
「提督もなかなか私の趣味を理解できるようになってきたんじゃないか?」
「それなりにはな」

私はたいして多くもない荷物を端に寄せ、布団を押し入れから引っ張り出してきて畳の上に敷いた。久しぶりに畳の上で寝るな、これも懐かしい香りがする。
布団を敷き終えたところで長門も寝巻に着替え終えたようだ。これも落ち着いた深い青の浴衣だ。う~ん、似合ってるな~。

「なんだ、どこかおかしいか?」
「いや、きれいだなと思って」
「~~~~~っっ!」

本日何度目かわからないようなやり取りをして、私たちは布団にもぐることにした。

「消灯だ。明日は○八○○起床のこと!」
「了解した」
「それから。……それから、ついてきてくれてきてありがとう。明日に備えてゆっくり休んでくれ」
「……zzz」
「まじかよっ!」

訓練された素早い就寝に舌を巻きながら、私も目を閉じた。

――――○八○○。母屋裏庭。

『厳冬ノ波、此方ニモ迫ラムト見ユ。本日ハ霧多ク又大霜降リタリ』

少し早めに起きた私は、長門のための風呂の準備に精を出していた。今時は電気でお湯を作り出す機械があるようだが、福岡のド田舎にそんなものはない。当然のように、炭で火を焚いて薪を突っ込んでいく。筒もあるが、私は団扇で煽ぐほうが好きなので納戸にあった大団扇で火を育てている。

「おや、こんな朝っぱらから風呂の支度かえ?」
「母さん。おはよう。そうなんだ、長門がどうしても朝風呂がいいって言うもんでさ」
「かーー!嫁が旦那に風呂支度をさせるとは、世の中も変わっていくもんだね」
「まあこれはいつものねぎらいの意味も込めてるからさ。ところで、昨日聞きそびれたんだけど、足が悪いとか言ってなかった?」
「ああ、そりゃあもう治った。久々に山に入ったら一発さね。どうも運動不足だったようだよ」
「…さいですか」

バイタリティ溢れる我が母親は健在のようであった。
と、ちょうど風呂が炊き上がったな。長門を呼びに行こうと腰を上げたところで母に止められてしまった。

「ん?」
「今あの嬢ちゃんは台所さ。あたしに料理を教えてくれとさっき頼んできたんだよ。これは秘密じゃぞ」
「なるほど」
「あと数分したら呼んでくるから、火の番でもしてな」
「わかったよ」

そう言い残し、母は母屋の中へ引っ込んでいった。…なるほどな、あの長門が料理とな…。実に興味深い、何より彼女が朝一で母に会いに行っていたことに驚いた。昨日はあんなにテンパってたっていうのに……。

数分後、母の宣言通り長門はやってきた。その顔は見るからに嬉しそうというか、楽しそうというか、こちらも思わず頬が緩んでしまう笑顔だった。

「おはよう提督!良い朝だな!」
「おはよう。霧が濃いうえに寒いが、風情としてはいい朝だな」
「うむ、今朝は気分がとても良い!」

何かあったのか、と白々しく棒読みで問うてみたいが、さすがにこの笑顔を崩すのはもったいない気がして口をつぐんだままでいた。

「おお!それが風呂か!提督が炊いてくれたのか!?」
「そうだ。俺からの感謝のしるしだよ。いつもありがとうな」
「う、うむ。そういうことなら入ってやらんでもないな」
「お前が朝風呂に入りたいと言ったんだろうに」
「確かにそうだったな。…では失礼して」

おもむろに彼女は浴衣を脱ぎ始めた。健康的な肌があらわになり、そして……

「入ったか?」
「入った」
「湯加減はどうだ?」
「すこぶるいい。提督は器用だな」
「もっと褒めてくれていいんだぞ」
「やめておこう」
「なんで!?」

普通に素の調子で即断られてしまった。ちなみに私は長門の肩から下は見ていない。残念だったな!

――――○九○○。母屋、居間。

「「「いただきます」」」

声をそろえ、合掌する。
今朝は山の幸を豊富に使った献立だ。茸や大葉の揚げ物まである。

「ずいぶん凝ってるな。……ん、この金平は」
「どうだ、美味いか?」

長門が俺の感想を要求した。

「美味い。母さんと似てるけど、少し違う感じがする」
「……ほっ」
「かか!よかったじゃないか、ええ?」
「本当にありがとうございます」
「ええ女は胃袋で男を捕まえておくんじゃ」
「心得ました」
「そうか、まあ俺はもう長門に鹵獲されてるけどな」

瞬間、背中からいい音がしたと同時に食卓に頭を打ち付けそうになった。…照れ隠しか、照れ隠しなのか!?

「おやまあ、なんともお熱いねえ~。邪魔者は退散しましょうか?」
「いえ、ぜひともここにいらしてください。そして提督のお話をたくさん聞かせてください」
「よかよか。おんじゃあまずこのちんちくりんがまだ三つの時にじゃな…」
「や、やめてくれ~~」

当然、聞く耳を持つものは誰一人としていなかった。私は灰になりかけた。

―――― 一七○○。星乃村、山道。

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私たちは予想外に長く尾を引いた私の昔話のあと、母にまたしばらくの別れを告げ、少し離れたところにある山へと向かっていた。

「ふふ、それにしてもまさか提督にあんな話があったとは知らなかった。恐れ入ったよまったく」
「私でも覚えていないことを母は覚えているからな。身の内側から焼かれるような思いだった…。あ、御者よここで止めてくれ」

山の中腹で馬車を降り、茶畑が続く道を歩いていく。今は農閑期で、畑にはほとんど人がいなかった。

「ところで提督、私たちはどこへ向かっているのだ?」
「あぁ、ちょうどこの茶畑を抜けたところに私の妹夫婦が住んでいるんだ。お前の紹介も兼ねてまた挨拶だよ」
「そ、そうか。あい分かった」
「ずいぶんと慣れた様子だな?」
「母君と話している中で妹御の話もちらと聞いたからな。次はどんな話が聞けるか楽しみだ」
「おい……」

十数分歩くと、ようやく茶畑の道も終わりをむかえ、妹夫婦が住む家が見えてきた。果たして元気にしているだろうか。
そして庭に入ったところでそれは起きた。

『パパパパパパン!』
「うわわっ!」
「なんだっ!?」

二人そろって火薬が炸裂したような音に驚き、身を低く伏せた。すると家の扉が勢いよく開けられ、猟銃を持った女性が外へ飛び出してきた。その姿に私は少し安堵した。

「だれっ!?」
「……俺だが」
「え、あれ?嘘、お兄?」
「元気そうで何よりだよ。引き金からゆっくり手を放して銃を下ろしてくれないか」
「ああ、ごめん。…っと」
「これは害獣対策だったのか…」
「そう、旦那が作ったんだ。畑の出口に仕掛けた糸が切れるともれなく空砲のオンパレード。それでも逃げないやつの時の猟銃ってこと」
「なるほど」
「そんで、後ろのが私の義姉さんになる人なのかな?はじめまして、お兄の妹です。よろしくね」

妹は私の後ろに隠れていた長門を覗き込むようにしてにこにこしていた。

「初めまして。長門と申します、お会いできて光栄です」
「いいよ~敬語じゃなくても。長門ちゃん」
「ふふっ…長門ちゃん…ふふっ…」
「やめろ、気持ち悪い」

後ろ頭にチョップを食らった。…地味に痛いぞこれ。

「本当に仲がいいんだね~。まあ立ち話もなんだし、中に入ってよ」
「旦那さんはいないのか?」
「いま寄合よ」
「なるほど」

私たちは妹に招かれ家の中に上がった。外観はいわゆる和風建築そのものだが、内部はところどころ、というより大部分が洋風なものを取り入れていた。

「すごいな、全部手作りか」
「そうよ、旦那のね。私は押さえてたりしただけよ」
「あ、見てくれ提督。この棚、執務室にあるものと同じではないか?」
「そうだ。あれもこいつの旦那に作ってもらったんだ。あいつのことはお前も知ってるはずだけどな」
「妹御の亭主殿も器用なのだな」
「えっへん」
「いや違うだろ」

他愛ない話などをしながら寛いでいたところに、玄関口から音が聞こえてきた。どうやら妹の旦那が帰ってきたようだ。

「ご無沙汰してます、提督」
「おう、久しぶりだな。って、その挨拶はよしてくれよ…いいんだ、もうお前は部下じゃない」
「わかってますよ、久しぶりに会えて嬉しいんです。長門さんもお久しぶりですね」
「え、あ……。もしかして、整備班の…?」
「そうです!覚えてくださっていて光栄です」
「ああ、ということは君が辞めたのは提督の妹御と婚姻を結ばれたからだったのか…。なんだか感慨深いな」
「ええ、本当に」
「っんん!」

少し強引にだが話を切ってやった。長門が他の男と話しているのに嫉妬したとかそういうわけじゃない。断じてないぞ。…妹よ、なんだその楽しそうな目は。

「ところで、もうお茶は飲まれましたか?」
「ああ、いただいているが」
「あー、それは星乃茶ですね。おい、アレを淹れて差し上げろ」
「はいはーい」

旦那が指示すると、妹は台所へと引っ込んでいった。

「妹を顎で使うとはいい身分だな」
「えっと、勘弁してくださいよ……」
「提督ももう止めてやれ。…ところで、アレとは?」
「ええ、今年とれたしずく茶というものです。お猪口のような入物に少しずついただくんですよ。最後のお茶葉は酢醤油で味付けしていただくんです」
「ほう!それは面白いな。提督は飲んだことがあるのか?」
「毎年贈られてくるからな。気に入ったら執務室に飲みに来てもいいぞ」
「気に入るに決まっているだろう!」

ホクホク顔の長門に、私と元部下は苦笑した。

――――二三○○。妹夫婦の家、離れの寝室。

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結局あのあと、長門に私の昔話をせがまれた妹夫婦は、余すところなく存分に私の歴史を暴露してくれた。もう私は灰になっただろうか。灰になってどこかへ飛ばされたい気分だった。その後は妹と長門が料理を作ってふるまってくれたり、元部下と腕相撲をしたりと楽しい時間を過ごしたのだった。
現在は借りた離れの寝室で就寝準備を終えたところだ。

「今日は楽しかったか?」
「ああ。こんなにも充実したと思える旅は久しぶりだ」
「それならよかった。…うまくやっていけると思うか?」
「ああ、提督の家族はすてきだな。私たちもこんなに楽しく明るい家庭にできたらいいなと思う」
「そうか……」
「なんだ、不安か?」
「いや、……そうだな。確かに不安はある。私の嫁は仕事も好きだからな」
「そんなことか。私は任務がすべて終わればすぐにでもと思っているぞ」
「嬉しいこと言ってくれるな」

夜空に瞬く星たちは呉の鎮守府の空とは違う輝きを放っていた。山の生き物たちも息をひそめて星を眺めているのだろうか。そんな静かな闇の中で真冬の訪れを日ひしひしと感じるが、私はそれ以上の寒気をこの頼りになる愛すべき者に感じていたのだった。

「……愛してるぞ、長門」
「………」
「長門?」
「……zzz」

ふふ、と息を漏らし私は胸元に彼女を抱き寄せて目を閉じた。

――――○七○○。妹夫婦の家の前。

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「世話になったな」
「いえ、またいらしてください。歓迎しますよ」

私たちは身支度を終え、呉に戻る時を迎えた。妹は長門の腰に抱き着いて別れを惜しんでいるが、当の彼女は駆逐艦の子らと同じ対応をしたものかと困惑したような顔でやはり妹を――そっとではあるが――抱きしめていた。

「また来てください」
「おうよ、次は結婚式で会おう」
「……彼女を、守ってあげてくださいね」
「……それが私の任務だ」
「提督、馬車が来たぞ!」
「おう、今行く」

こうして私たちは呉へと戻っていった。いずれ来たる戦の日に備えて。いつか彼女と二人で、平和な海を見に行くために。

『我、漸ク此ノ時ニ至リテ守ルベキ者、守ルベキ場所を見ツケタリ。此ノ手記ハ、愛シキ者長門ニ捧グ』