【灰と幻想のグリムガル】4.5話 灰の追憶と決意【SS】

灰と幻想のグリムガルSSです。マナトの死に耐えきれず書いてみました。マナトとシホルが良い雰囲気になりながら魔法の練習を始めますが、最後にシホルはマナトに渡したいものがあった…。

出典:http://kabegami.org

シホルの魔法がゴブリンに直撃すると同時に、敵はうめき声を上げながらその場に倒れた。

もう何度も見た光景だが、嬉しさが込み上げてくるのは変わらない。

シホルは、安堵と喜びの混じった顔で一息ついた。

「やったやんシホル。少し前から魔法がうまなったと思ってたけど、凄い上達してるやん」

「そうかなあ」

 抱き付いてくるユメに対してシホルは満更でもなさそうな顔を見せた。

 今日の討伐はこれで終わりだ。数時間前にも実は三体ほど仕留めており、皆の顔に疲労が蓄積しているのが良く分かる。

「マナトがいなくなってから初の討伐だったけどうまく行ったな」

 ハルヒロが一安心したようにシホルとユメへ視線を向ける。

 するとその横から割って入ってきたのはランタだった。

「おいおい、こんな奴らも倒せなかったら、あいつも天国で浮かばれねえぞ」

「そうだな」

 四人はゴブリンの持ち物を取ると、後はランタが敵の一部をはぎ取り回収した。いつもここでマナトが喜びの言葉を投げかけてくるのだが……。

「よっし、じゃあ帰るぞー」

 ランタの用が終わると、四人は街へと足を向けた。

 

出典:http://livedoor.blogimg.jp

ベッドの上でシホルはユメに言われたことを思い出していた。『凄い上達してるやん』と言われたのは素直にうれしいことだが、そこにはマナトが大きな支えとなってくれていたのである。

 仰向けになったシホルは首にかかっているネックレスを見つめると、そっと瞼を閉じた。

 グリムガルに来て数日が経った頃、魔法を覚えたばかりのシホルは上手に扱うことが出来なかった。呪文は一通り覚えているが、それでも敵には当たることがなかった。

 パーティーの邪魔になっているのではないかと思ったときもある。それでも皆の役に立ちたいと頑張ってきたのだが、やはり限界があるようだ。

「やっぱり、教えてもらうしかないかなあ」

 そうつぶやくと、シホルは街に出た。

出典:http://www.anime-recorder.com

同じパーティーの神官であるマナトならばいいアドバイスをくれるはずだ。回復系統という事で種類は違っても魔法を使う事には変わりはない。もしかしたら似ているところもあるかもしれない。 

 そんな期待を持ちながら、シホルは周囲を見回した。

「あ、いた」

 この狭い街中でマナトの姿はすぐに見つけることが出来た。

 鏡で髪を整え、よし、と自分を鼓舞する。

「マナトさん、少しお願いがあるんですけど」

 アクセサリーショップで買い物をしていたマナトは、手にしていたネックレスを置いて笑みを向けてきた。

「どうしたの、悩みごと?」

 いつもと変わらない表情のはずだが、シホルはすっと目を横に向ける。

 こんなふうに2人で話したことがないから少し緊張してしまう。

「あの、実は魔法を教えてもらいたくて。私の攻撃全然当たらないから……」

「あ、ああ。そういう事だったのね。もちろんいいよ、でも俺の系統は回復だからあんまり役に立たないかもしれないけど」

「そんなことないです。お願いします」

 シホルは勢いよく首を垂れると、マナトが苦笑いをしながら撫でてきた。

「そんな事しなくてもいいよ。同じ仲間だろ?」

 より一層笑みを浮かべたマナトの顔をシホルはしばらく見つめると、場所と時間を言って逃げるように立ち去った。

出典:http://moca-news.net

マナトは切り株の上に空ビンを幾つか並べると、杖を持つシホルに呼びかける。

「よし、まずは動かない的を狙ってみよう。それから動く奴に切り替えて、最終的にはゴブリン一体を倒すことが目的だ」

「はい!」

 元気よく返事したシホルはきゅっと杖を握りしめる。

 マナトが的から離れるのを確認すると、魔法を放つが、明後日の方向に飛んで行ってしまう。結果は一目瞭然だった。

「1つも当たらない……」

 頬に汗を流しながらシホルが呟くと、マナトが歩み寄ってきた。

「もう少し、杖の方向を変えたらいんじゃない?」

 そしてシホルの後ろまで来ると、一緒に手をそえる。

「~~」

 固まったシホルにマナトは、どうしたの? と尋ねるが、抱き付かれるような格好をしているシホルは言葉も出ない。そんなシホルの事を知らずか、マナトの手に更に力がこもる。

「ほら、ちゃんと狙わないと当たらないよ。そう、もう少し下かな」

 マナトの声が耳元で囁く。

 シホルは振り払って逃げたかったが、自分から頼んでいるのだからそうもいかない。

 何とか堪えて狙いを定めると、魔法を撃つ。

 すると、切り株の上にある瓶が派手な音を立てながら砕け散った。

 マナトにサポートされながらも続けて売った魔法は全てヒットしたが、シホルには嬉しさと恥ずかしさが半分づつ入り混じっていた。

「やった」

「うん、この調子だね」

 すっとマナトが離れると、あっと声が出そうになるのを何とか堪える。

「じゃあ次は一人でやってみようか?」 

 頷いたシホルはさっきの教えを忠実に守り、どうにか瓶を全て破壊することに成功した。

 それを見たマナトは、次の練習で使うための道具を作りにかかる。

「何してるの?」

「動く的を作ってるんだ。敵は止まらないからね」

 マナトは長いヒモの先に丸い的を付けると、それを機にぶら下げる。そして左右に的を動かす。

「こんなもんだろ。よし、じゃあもう一回俺と一緒にやってみようか?」

「えっ、うん。分かった」

 頬を染めながらシホルは頷く。

 マナトはさっきと同じようにシホルの後ろから抱き付くような形で手を添えた。

 左右に揺れる的へ狙いを定めるが、気のせいかさっきよりもマナトが密着しているようだ。

「ごめん、ちょっと難しいね」

「そう、だね」

 視線を落としてシホルはマナトの体温を感じていると。

「ほら、前を見て」

 注意される。

 しかしその言葉さえも、もはやシホルに取っては叱られる要素とならなかった。どちらかと言えば、もう少し長く話してほしい。

 だがシホルの気持ちを知らないマナトは真剣そのものなのだ。

「じゃあ、僕が言うタイミングで魔法を撃って」

「分かった」

 シホルは深呼吸して、マナトの合図で魔法を放つ。

 弓矢の如く魔法は的に向かって飛んでいくと、丁度いいタイミングで当たった。

「やった」

 思わず声を漏らしたシホルにマナトもうなずく。

「いいタイミングだったね。じゃあ的を変えるから、もう一回してみよう」

 マナトが的を交換しに行くと、シホルは背中の余韻を感じずにはいられなかった。

出典:http://kabegami.org

 数日後、
「シホルもそろそろ慣れてきたし、ゴブリン探しに行こうか」
 突然マナトが言いだした。確かに最終的な目標ではあるが、まだ早い気がする。
 だがマナトの笑みにシホルはただ頷くことしかできなかった。
 二人は森へ入ると、すぐにゴブリンを見つけた。
 マナトが周囲を確認して、一体だけであることを確かめる。
「よし、まずは奇襲だ。それから相手は気が付くかもしれない、だから距離を取りながら魔法を撃つんだ」
 ぎこちなく頷くシホルの頭をマナトが優しく撫でてくる。
「大丈夫だ、ピンチになったら助けるから」
「ほんとに?」
「当たり前だろ」
 シホルの方を力強くたたいたマナトは、視線をゴブリンに向ける。
 ごくりと生唾を飲んだシホルは、杖を構えると大きく息を吐き出し、精神を集中させる。問題はないはずだ、この数日かなりの練習を積んできたのだから。
「よし」
 小さく呟いて、魔法をはなつと、気が付いていないゴブリンに直撃する。
「ギイイ!」
 奇声を上げたゴブリンが振り返ると、シホルの姿をとらえたのか腰の短検を抜刀して向かってきた。
「シホル、なるべく距離を保つんだ!」
 マナトの指示が飛ぶのを聴いて、シホルは駆けだした。
「追ってきてるぞ!」
 振り返ると、ゴブリンが獲物を振りあげて走ってきている。
 シホルは口で呪文を唱えながら、後ろにいるゴブリンへ魔法を放つ。しかし地面へと起動がそれてしまい、盛大な土煙を巻きあげただけだった。
「大丈夫だ、焦らずに狙うんだ」
 運よく目くらましとなった土煙から離れて、シホルはもう一度呪文を唱え始める。
 数秒後に、煙の中からゴブリンが飛び出してきた。
 シホルはよく狙いを澄まして、杖を振るい魔法を飛ばす。
 見事に相手の顔へ直撃し、ゴブリンは頭から血を流した。しかしそれだけで死ぬはずもなく、敵意をむき出しにしてシホルへと襲い掛かる。
「きゃああ」
 その雰囲気に圧倒されたシホルは木の根に躓いてしまい、動けなくなった。
 目の前まで来たゴブリンが不気味な笑い声をだすと、短刀を振り上げた。その時。
 茂みからマナトが飛び出し、敵の横腹を思い切り殴りつけた。
「ギイイイイ!」
 ゴブリンは近くの気に激突するが、それでも戦意喪失とまではいかない。
「シホル、いまだ!」
 マナトが合図をした時には、シホルは既に呪文詠唱を追えていた。
 そして、杖を振り下ろして魔法が放たれると見事にゴブリンの頭にクリーンヒットする。
 すぐにマナトが寄ってきてシホルに抱き付いた。
「やったな!」
 あまりの唐突さにシホルは赤面し、言葉が出せなかった。それでもシホルはマナトの腕の中で笑みを浮かべていた。
 じゃあ後はやることは一つだけだ。
 シホルは練習が始まってから決めていたことを密かに決行しようと決めたのだった。

出典:http://www.anime-recorder.com

 ゴブリンを倒して街へ戻ると、その金でシホルはマナトが寄っていたアクセサリー店に足を向けた。目的の商品はすぐに見つかり二つ購入すると、マナトの元へ急いだ。

 武器の手入れをしているマナトの姿を見つけると、シホルはゆっくりと歩み寄る。

「あの……」

 と声をかけると、汗だくになっているマナトが振り返る。

「やあシホル、どうしたの? もう練習は終わったと思うけど」

「実は渡したいものがあるの」

 買ってきたネックレスをマナトに見せると、彼のは目を見開いた。

「これって、俺が見てたやつ」

「練習に付き合ってくれたお礼に」

 マナトは嬉しそうにシホルの手からネックレスを受け取ると、早速身につける。

「どう?」

「似合ってる」

「あ、もう一つ買ったんだね。僕が付けるよ」

 もう一つのネックレスに気が付いたマナトは、シホルの返事も聞かずにネックレスを付けてやる。

「あ、お揃いだったのか。うん、大事にするよ」

「私も……大事にするね」

出典:http://anicobin.ldblog.jp

ゆっくりと目を開けたシホルは昔の事を鮮明に思い出していた。

 マナトが死んだときは泣き崩れてしまったが、彼のおかげで強くなれたのだから、泣くことは出来ないのだ。プラスになることはあってもマイナスにすることなど出来ない。

 自信と誇りをもって生きていこう。

「私頑張るよ」

 ネックレスを握りしめて宣言したシホルは、今度こそ眠りについた。